鈴木歌穂さん

2018-09-21

今回は、東京藝術大学の作曲科を卒業後、現在はマルチに活動されている鈴木さんに、受験や大学時代のお話を伺いました。

作曲を始められたのはいつからですか?

ヤマハでピアノを4歳から習い始め、作曲は、きちんとしたピアノ曲を6歳から書き始めました。その前からも、ちょっとした歌のようなものは遊び感覚で作っていました。小学校に上がる時にヤマハのジュニア専門コースに進んだのですが、そこでは曲を作ることが当たり前の世界でしたので、作曲をすることは自然なことだと思って生きてきました。

高校は音楽高校ではなく普通科に進学されていますが、何か理由はありますか?

高校に入る時点で、将来は音楽の仕事がしたいとは思っていました。なので大学は色々考えた結果、ずっと勉強してきた作曲で受験することにしたのですが、高校を選ぶ際、音楽科を経て音大に行ったら、普通科に進んだ人と比べて、視野がより音楽に寄ってしまうのかなと思いまして...音楽に集中できる時間が多いことは素晴らしいと思うのですが、私自身はそれより、広い世界で色々なことを学びたい、吸収したいと考え、高校はあえて普通科に進学しました。その環境で高校時代を過ごせたことが、今振り返ると、とても良かったなと思っています。

ずっと通っていたヤマハが、それこそ藝大の縮小版のような世界でして、自分もその中でストイックに勉強していたので、音楽以外の方面で頑張っている人達とも一緒に過ごしたかったんです。

将来、音楽の仕事がしたいと思ったのはなぜですか?

育ってきた環境と両親の影響で自然と...ですかね。母はピアノ科出身で、父も趣味で歌ったりヴァイオリンを弾いたりしていました。ヤマハに入る前から、たくさん音楽を聴きましたし、家にも色々な楽器がありました。楽器がおもちゃがわりだったんです。グランド&アップライトピアノ、エレクトーン、ドラムセット、小さな鉄琴、鈴、タンバリン、ギター、ヴァイオリン、琵琶など…音楽が当たり前のように身近にある環境でした。

受験準備はどのようなことをされましたか?

藝大の作曲科の試験は、おおまかにいうと、一次試験が和声(注1)課題、二次試験が対位法(注2)の課題、三次試験が自由作曲、といった試験内容になっています。一次や二次の対策はもちろん、三次試験の自由作曲も、ただ自由に作曲すればいいというわけではありません。高校2年生頃からは、より受験に特化した勉強をするため、個別に藝大系の先生にお世話になりました。

ソルフェージュ(注3)などの試験は、作曲科でいう四次試験にあたるのですが、実は受験の直前まで具体的な課題内容を知りませんでした。ヤマハで10年以上ついていた作曲の先生に藝大受験の面倒を見ていただいたのですが、先生からはソルフェージュの対策は特に必要ないと言われていました。それくらい、ヤマハで基礎的な部分はやってきた、ということでしょうか...でも三次試験通過後にさすがに心配になり、四次試験の3日前くらいに藝大の赤本を見て、そこで初めて試験の内容を知りました。

作曲科の受験ってどういう感じなのでしょうか?

作曲科の試験は、何時間もかけて曲を書きます。舞台に立つ時の一瞬の緊張とは、また違った種類の緊張感がありますね。とにかく長いです。一次試験はソプラノ課題とバス課題を3時間ずつ、2次試験は通しで5時間、三次試験は午前と午後を合わせて8時間、耐久勝負です。集中力を切らさないことが大切なのかなと。演奏系の人達とは受験の方向性が違うので、専用の対策が必要な科だと思います。

私も受験当日まで、時間を計って作曲をする練習をしてきました。5時間で書く試験なら、家でも5時間以内で書けるようにと。でもやはり試験当日は、何かしら心理状態がいつもとは違ってしまいますよね。準備はしっかりしてきたつもりでしたが、本番では普段より慎重になり、曲を書くペースが遅くなってしまい、危うく時間が足りなくなるところでした...!他の受験者と同じ部屋での試験なので、音を鳴らしたりはもちろん出来ませんが、それでも鉛筆でカリカリ書いてる音など、気になり始めてそわそわしてしまったりして(笑)。

過酷な受験を乗り越え、無事に藝大に合格されましたが、藝大生活はどうでしたか?

すぐに慣れましたが、最初は少し空気感がピリピリしているかなぁと思いました。全国のコンクールなどで幼い頃から上位を競ってきた人達が、そのまま集まっているようなところでもあるので、仲良く大学生活を送ってはいますが、同時にライバルという面があるからかと・・・。みんな同じ方向を目指して頑張っているので、そうなるのかもしれませんね。もちろん科ごとにも雰囲気は違ってくるのですが。

また、私が高校生の時に思い描いていた「大学生活」とはちょっと違うかなと思いました。バイトをしたり、サークルに入って和気あいあいとしている中で、自分のやりたいことにも取り組み、一生懸命夢を目指して…というイメージがあったのですが、藝大は「仕事への延長線」という感じでした。将来、仕事現場で一緒になるだろう仲間たちが既に周りにいますし、その中で感じたこと、学び取ったことは、そのまま今に生かされているので。職業訓練校とは違いますが、それに近い部分もあるのかなって。

作曲科は個性がとても強い科だと思いました。4年間いたらさすがに馴染んできますけどね(笑)。あとは、思っていたより毎日が忙しかったなと思います。常にピアノの演奏での本番がある中で、ちょこちょこいただける作編曲のお仕事の曲なども書きつつ、合間に授業や学内で発表する曲の制作もして…

4年間を振り返ると、本当に慌ただしくしていたと思いますが、そんな毎日が楽しかった学生生活でした。

藝大に入って良かったことはありますか?

環境ですね。同じように頑張っている人達が周りにいるので励みになるのはもちろん、楽器の専攻の友達が側に沢山いるので、「この楽器って、例えばこんなフレーズを演奏したらどうなるのかな?」という時に、気軽に質問をしたり、すぐにその場で実演をしてもらうことも出来ちゃうんです。そしてそれがハイクオリティーなんです。楽器の勉強は、CDを聴いたり、文献を調べる方法も当然ありますが、実際そこに演奏家がいて、リアルタイムに音を聴かせてくれるというのは、すごく幸せで恵まれたことだったんだなぁと、卒業してから改めて思いました。

逆に、苦労したことはなんですか?

私はもともと商業音楽が好きだったこともあり、現代音楽はあまり得意じゃないんです。でも藝大は教育の場所であるので、作曲科の試験で作る曲も、暗黙の了解で現代音楽じゃないと...という風潮があったので、居場所が無いとまでは言いませんが、後ろめたい思いはありました。どうしても現代音楽が好きになれなくて、私は本当にここにいてもいいのかなと、入学当初は悩んだりもしていました。でも、当時の門下(注4)の先生が、「現代音楽だけが全てじゃないし、あなたが好きな音楽がダメなものだって、誰が決めたの?」と仰ってくださったんです。あなたの好きなものを作ればいいんじゃない、と言ってもらえ、とても救われました。ただ現実問題として、藝大にいる間は現代音楽、広く言うとクラシック系の音楽を書かないと、もちろん卒業はできません。なので、考え方を変えてみようと途中で思い立ったんです。最初は辛いなぁとしか思っていませんでしたが、藝大での環境は卒業したら無くなってしまうものなので、ここにいる間は、今この環境の中でしか出来ないことをとにかく学ぼうと思いました。その中で吸収できることを存分に吸収しようと。

他科の伴奏も死ぬほど引き受けました。周りで真剣にクラシックを勉強している仲間とは、卒業したらおそらく離れ離れになってしまいますし。たとえ自分の進もうとしているジャンルではないとしても、卒業後そちらに関わることが少なくなってしまうとしても、大学は両親が学費を出して与えてくれた、学びに行かせていただいている場所なので、その環境内で最大限学べることに対して頑張った4年間でした。

卒業後のことについて教えてください。

現在の活動は、多岐に渡っています。作曲に関しては、ポップスの歌モノから吹奏楽系のインスト曲も書きますし、オーケストラに演奏してもらうための編曲もすれば、J−POPのいわゆるアレンジもしています。耳コピなどでの譜面制作のご依頼もよくいただきますね。在学中より頻度は少なくなりましたが、クラシックコンサートでピアノの演奏をしたり、Liveやイベントではキーボードも弾きます。あとは歌を歌ったり、最近はイベントMCや、アイドルさんのサウンドプロデュースなど・・・有り難いことに、様々なことをさせていただいております。

今はとにかく自分の持つ能力で出来る全てのことを頑張り、夢の実現のきっかけに繋がればと思っています。他の分野で認められたら、いつか自分の本当にやりたかったことを出来るようになれるかなと。

音楽の道への進学を考えている方々にむけて、メッセージをお願いします。

一人きりで受験というものに立ち向かっていると、色々不安になり、思いつめたり悩みを抱え込んでしまうこともあるかと思います。ですが一緒に考えたり、助言をしてくれる人がいれば、受験に対して心にある程度ゆとりを持って臨めるので、そういった環境や、相談が出来る相手がいるということは大事だと思います。自分一人で考え込んでしまうと「判断基準がわからないし、どうしよう。」という気持ちの堂々巡りになってしまうこともありますし、また、音大などは特殊な受験なので、解決策が専門の人でないと判断できない場合も多いです。ちゃんと事情をわかった上で、色々なアドバイスや、自分の疑問などに向き合ってくれる人がいると、安心して自信を持って頑張れると思います!!

注釈
注1「和声」
西洋音楽の音楽理論の用語で、和音の進行、声部の導き方(声部連結)および配置の組み合わせを指す概念のこと。
注2「対位法」
複数の旋律を、それぞれの独立性を保ちつつ互いに調和させて重ね合わせる技法、ないし音楽理論のこと。
注3「ソルフェージュ」
西洋音楽の学習において、楽譜を読むことを中心とした基礎訓練のこと。
注4「門下」
入学後に、自分が大学で師事する教授が決められ、その教授の受け持つ学生達の総称。
教授の名前を入れて、「〇〇門下」とも呼ばれる。
~鈴木 歌穂(すずき かほ)~

名古屋市出身。愛知県立旭丘高等学校普通科を経て、東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。4歳よりピアノを、6歳より作曲を始める。2002年に中国の蘇州にて日中友好30周年記念コンサートに出演。第20回日本ピアノ教育連盟オーディション全国大会入賞、受賞者記念演奏会に出演。

様々な編成による自作の室内楽曲が、CD及び楽譜で現在発売中。クラシック系音楽に限らず、J-POPなどの作編曲も行うが、オーケストラの編曲を得意とし、アニメやゲームの曲のオケや室内楽アレンジを数多く手がけている。

また様々な楽器の伴奏ピアニスト、Liveサポート、絵本の読み聞かせに合わせての即興演奏など、演奏者としても活動中。その他イベントMCやピアノでの弾き語り、サウンドプロデュースなど、活動内容は多岐に渡る。

 TV番組「新 鉄道・絶景の旅」のオープニングテーマ曲「旅立ちの朝に」を作曲(コーラスも兼)。

現在、毎週木曜日19:00~20:54、BS朝日にて放送中。

~主な提供作品~

BoysRepublic

「Royal Party〜共和国のテーマ〜」作曲 (共作:遠藤ナオキ)

1st Album「Beginning」収録

欅坂46

「夕陽1/3」編曲

1st Album「真っ白なものは汚したくなる」Type-A収録

3rd Single「二人セゾン」収録

絶狼-DRAGON BLOOD-

最終話挿入

OP曲(「DRAGONFLAME」/JAM Project)のオーケストラ編曲(劇伴)

LAZY

「Wandering Soul」Strings&Chorusアレンジ

40周年記念シングル「Slow and Steady」収録

RiO

「Weekend」作曲・編曲・サウンドプロデュース

「Monochrome Ruins」作曲・編曲・サウンドプロデュース

Solo Debut Single 「Weekend / Monochrome Ruins」収録

Kis-My-Ft2

「蜃気楼」Strings&Piano アレンジ

  7th Album「Yummy!!」収録

アンサンブルコンテストセレクション(室内楽曲)

「黎明の空へ」作曲

(「The Blue Aurora Saxophone Quartet」3rd Album 「和楽」にも収録)

「四神降り立つ街に」作曲

「凍土の蒼き夜に」作曲

「ある冬の日、子ぎつねの物語」作曲

「千夜の夢より」作曲

「緋色の桜」作曲

(※それぞれ、CDと譜面にて発売中)

*カリキュラムや入試に関する内容は、当時の内容となっております。具体的な試験内容など、公式の受験要項を必ずご確認いただきますよう、お願いいたします。