フォニム・ミュージックでは、クラシック・ジャズ・ポップスといった様々なジャンルの音楽をバランスよく学び、音楽の世界を広げ幅広い技術を身に付けられるように、専用カリキュラムを作っています。一方で、昔から用いられてきた伝統的なカリキュラムも存在します。この記事では、クラシック・ピアノを学ぶときの王道と呼べるカリキュラムを見ていきましょう。

賛否両論の「王道カリキュラム」

バイエルから始まって、ソナタに到達するまでの道のり、というのがざっくりとした王道カリキュラムといえるでしょう。日本にクラシック音楽が入ってきて、一般に浸透し始めた明治・大正時代から使われているカリキュラムです。日本人がクラシック音楽界で目覚ましい活躍を見せているのはこのおかげだということができそうです。

一方で画一的で、個性を活かすことができず、技巧第一となってしまう、という意見もあります。また、日本の王道カリキュラムは教本こそヨーロッパのものを使っていますが、19世紀に書かれたいわゆる”古い”教本なので、音楽教育法やピアノ演奏法の進化から取り残されている化石のような存在になってしまっているという批判もあります。

このように賛否両論があるのですが、万人にとって完璧なカリキュラムというものは存在しません。多様化したカリキュラムのなかの一つとして、伝統的な「王道カリキュラム」がある、と捉えていただけると嬉しいです。

バイエル

期間:0か月~18か月

レベル:入門~初級

バイエルはドイツの音楽教育者で、ピアノのスタートといえばバイエル教則本が人気です。5本の指の基本的な使い方の説明から入り、非常にシンプルな曲から徐々に情感豊かな曲や技巧的な曲へとレベルアップしていきます。

解説もしっかりありますので、大人の方は独学でも十分に練習することができますし、子供にとっても教師の助けがあれば迷うことなく上達への第一歩を踏み出すことができます。

ハノン

期間:6か月~4年

レベル:初級~中級

ハノンはフランスの音楽教育者で、基礎練習といえばまずハノンを挙げる人がほとんどでしょう。古典~ロマン派のピアノ技術の要素を取り出して、それを執拗に繰り返して練習します。この曲集で各指の独立や、平均的な音の出し方を身に付けることができます。また、音階・アルペジオ・半音階・トリルといった練習は、ピアノには必須のものです。

曲集の始めに、「指を高くあげて非常にはっきりと演奏しなさい」とあり、「ハイフィンガー奏法」を指定しています。この「ハイフィンガー奏法」こそ賛否両論のあるものですが、練習時に用いると早いパッセージの粒を揃えて弾くことに役に立ちます。

ソナチネアルバム

期間:18か月~6年

レベル:初級~中級

バイエルが終わったら、ソナチネに進む、というのが王道パターンです。ソナチネは「小さいソナタ」という意味ですが、曲としてしっかりとしたボリュームがあり、1曲を弾ききるのに5分程度はかかります。バイエルからソナチネに進んで、本格的なピアノ曲に挑戦する期待と、中級が見えてきたワクワク感があり、ピアノが本格的に楽しくなりはじめます。

一方で、バイエル・ハノンのような練習曲としては弾けていたパッセージも、曲の中に出てくると難しくて弾けない!となってしまうこともあり、ここを乗り越えることが大切になります。

ツェルニーの練習曲

期間:1年~8年

レベル

100番練習曲:初級

30番練習曲:初級~中級

40番練習曲:中級

50番練習曲:中級~上級

ツェルニーはオーストリアの作曲家で、たくさんの練習曲を残しました。その中でも「30番練習曲」と「40番練習曲」はピアノのテクニックの総まとめのような、重要な練習曲集となっています。「30番練習曲」が難しい人には「100番練習曲」という簡単な練習曲があり、「40番練習曲」が終わった人には「50番練習曲」というさらに難しい練習曲があり、いつまでも練習のお供にすることができる点でも心強いです。

インベンションとシンフォニア

期間:2年~6年

レベル

インベンション:初級~中級

シンフォニア:中級

音楽の父とも言われるバッハの練習曲で、1ページから2ページの短い曲となっています。練習曲といってもピアノ演奏だけでなく作曲のお手本という意味もあり、「対位法」という技術を駆使した複雑な建造物のような曲で、弾きこなすには相当の技術が必要です。特に、右手と左手が独立して動かすことが必須となってきます。

ソナタアルバム

期間:4年~10年

レベル:中級~上級

ソナチネアルバムが終わったら、ついにハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンの通称「ウィーン古典派」という偉大な三人の作曲家のソナタにうつります。ソナチネに比べると曲の規模も、ピアノの技法も各段にレベルアップしています。ソナタアルバムに収録しているピアノ曲は、プロのピアニストがリサイタルの主役に持ってくるレベルの曲もあります。

平均律クラヴィーア曲集

期間:5年~15年

レベル:中級~上級

24個の全ての調で、前奏曲とフーガからなる曲集です。前奏曲は様々なスタイルで書かれた自由な曲で、フーガは「インヴェンションとシンフォニア」をさらに発展させたような曲となっています。曲のスタイルに対する知識や、ハノンやツェルニーで培ってきたピアノの技術などを、フルに応用させなければ弾くことができません。この曲集のどの曲にも取り組める自信がついてきたら、ピアノ上級者の入口に立てていると言えるでしょう。

モーツァルト・ベートーヴェンのソナタ集

期間:4年~15年

レベル:中級~上級

モーツァルトは18曲、ベートーヴェンは32曲のピアノソナタをのこしています。そのうちの数曲はソナタアルバムに収録されていますが、それ以外の曲は、さらに規模が大きかったり、オリジナリティに溢れたアイディアが詰まった曲など、面白い曲がたくさんあります。ベートーヴェンの後期のソナタ作品はピアノ上級者でも弾きこなすのが難しい曲がたくさんあり、一生をかけて少しずつ取り組んでいくのが良いでしょう。

ショパンのエチュード

期間:6年~15年

レベル:上級

「エチュード」は練習曲の意味です。ここまでのレベルになったら、それぞれの個性に合わせて、自由に曲を選んで良いでしょう。基本的な技術は十分に身に付いており、どんな曲でも、じっくり練習することで弾きこなすことができるようになっているはずです。そこで、さらなる技術を身に付けるために練習する曲がショパンの「エチュード」となります。ショパンの「エチュード」は練習曲を飛び越え、ピアノ曲としての価値も非常に高く、一つの芸術作品として向き合う必要があります。

自分にあったカリキュラムを選ぼう

このように「王道カリキュラム」を見てみると、基本をしっかり押さえながら、徐々に規模を広げていることがわかります。それだけ研究されてきた練習法なだけあって、間違いなく上達することができるでしょう。

一方で、ピアノは西洋クラシック音楽以外にも様々なジャンルで使われている万能な楽器です。ジャズピアノをやりたい場合はこのカリキュラムに沿ってもなかなか目指す技術は手に入らないでしょうし、ポップスのピアノをやりたい場合、弾き語りをしたい場合、それぞれに応じて身に付ける技術や知識があります。

また、現代は様々なジャンルが相互に影響しあって、垣根を超えた音楽も次々に登場しています。様々なジャンルを俯瞰的に見ると、おなじクラシック音楽でもまた違った見え方ができるかと思います。

これからピアノを始めるという方は、自分の目指すピアニスト像をイメージして、それを先生に伝えるのもお勧めです。

ぜひピアノ勉強の進め方の参考にしてみてください。