ピアノを練習するとき、まずは音階の練習から始めるものです。しかし、音階といっても種類が膨大で、指使いを覚えるのも大変ですし、やみくもに進めてもなかなか覚えられません。そこで、指使いの原則を知って、長調・短調の音階、半音階や全音音階などさまざまな音階をピアノで滑らかに演奏するコツを学びましょう。
まずはハ長調を弾こう
ハ長調(C-Major)は全て白鍵で弾くことができるため、鍵盤の位置を覚えるのが楽です。しかし、逆に立体的に手を使うことができないため弾きやすい音階とはいえません。
そんなハ長調の音階は、今後様々な音階を弾く上で重要なことをいくつも身に付けることができる大切な音階ですので、まずはこれを練習しましょう。
3から1や、4から1で指を返すことになりますが、その際3や4の指は黒鍵の脇の狭くなっている部分に指がかかるくらい奥を弾きます。
音階の原則1:オクターヴで繰り返し
オクターヴで繰り返しになるような指使いにする。
ハ長調の場合、
ド:1
レ:2
ミ:3
ファ:1
ソ:2
ラ:3
シ:4
になるように繰り返していきます。こうすることで、指の感覚で今何の音を弾いているのかが分かるようになります。また、ハ長調は全てが白鍵ですが、黒鍵が入る音階を練習するときは、オクターヴで繰り返すと、毎回同じ指使いで弾くことができ、便利です。
例外:開始と終わりは5を使うなどして、一息で弾く
左手を見ると5から始まっています。左手のハ長調は本来ドは1で弾くのですが、いきなり親指から始まってしまったら弾きづらいですね。こういう場合は、5-4-3-2-1と開始することで弾きやすくなります。
音階の原則2:指を返すときは3か4から1、または1から3か4
人の指は中指と薬指が長いため、この指を軸にして指を返すと楽です。例えばハ長調の右手の上りの場合は、開始からドレミを1-2-3と弾くに従ってだんだん手首を上げていき、手のひらと鍵盤の間に十分な空間を作ります。その間を親指が通って、ファを1で捉えます。この手のひらと鍵盤の空間を作る時に便利です。
試しに、ドレミファソラシドを123-1234-1と、12-12345-1で弾き比べてみましょう。弾きやすさに大きな違いがあるはずです。
例外:音階の開始を2から1で返して始まることがある
黒鍵で開始する音階の場合、2から1で返して始まる場合があります。これは後で出てきますので、その時に紹介します。
例外:レガートで演奏したいときに、12345の指使いを用いることがある
どうしても指を返すときに、レガートが途切れてしまったり、速い動きが出来なくなってしまいます。このときに、12345と5本の指をフル活用すると、5つの音まで素早くとてもつながったレガートで演奏できます。これは上級レベルの技術です。
ヘ長調(F-Major)を弾こう
ハ長調は全てが白鍵なのでミスタッチは少なく弾くことができると思いますが、指使いに慣れるのはなかなか大変です。その原因の一つが右手は指を返す位置がミ→ファとシ→ドなのに対し、左手はソ→ラとシ→ドと、ズレているからです。
ヘ長調(F-Major)の音階は、左手はハ長調の時と全く変わりませんが、右手は1234-123という指使いになり、指を返すタイミングがハ長調の時と異なります。この指使いになると逆に右手と左手で常に親指を使うタイミングが揃うので、ハ長調よりむしろ簡単になります。
また、右手はシ♭→ドで、4→1と黒鍵を使って指を返すことで、これも白鍵のみのハ長調より簡単になっています。なお左手はド→レのとき、ファ→ソのときに指を返すことになるので、黒鍵を利用していません。
音階の原則3:黒鍵→白鍵または白鍵→黒鍵のときに指を返す
ヘ長調でシ♭→ドのときに指を返すのは、黒鍵が鍵盤の奥の高い位置にあり、シ♭を弾いているときに手のひらと鍵盤の空間が広くなるためです。ピアノがここまで世界中に普及したのは、この黒鍵の位置が絶妙で、音階を弾くのに有利だったからだといえるでしょう。黒鍵を利用して指を返すのは音階に限らずどんなときにも応用できます。
ロ長調(B-Major)を弾こう
さて、黒鍵があると弾きやすいことを見てきましたが、ここで一気に全ての黒鍵を使ってみましょう。ロ長調は調号に♯が5つもついていて、白鍵2つと黒鍵5つという音階になっています。調号が多くて読みづらかったり、黒鍵は小さいためミスタッチをしやすくなる、ということはありますが、手が鍵盤に綺麗にフィットするため、感覚を掴むと最も弾きやすい音階となります。
面白いことに、この音階の白鍵はすべて親指か小指となっています。ハ長調の時と比べて、親指の動きが少なくて済むことを確認してください。
音階の原則4:黒鍵を1で弾かない
親指はもともと短く低い位置にあるため、黒鍵を弾くのに適していない指です。逆に長い指である中指や薬指は白鍵よりもむしろ黒鍵に使いたくなる指です。中指や薬指は、白鍵を弾くときも、黒鍵の隙間の狭くなっている部分を弾いた方が自然なことが多いです。
例外:黒鍵だけでできた旋律を弾くときは黒鍵を1で弾くことがあります。
変ロ長調(B♭-Major)を弾こう
ここまで見てきた音階は全て白鍵から始まっていましたので、右手の上りと左手の下りは1から始めればOKでした。それでは、黒鍵から始まる音階を見てみましょう。
黒鍵から始まる音階の右手の上りと左手の下りは2から始め、2で終わるように弾きます。
音階の原則5:黒鍵で始まる音階の右手の上りと左手の下りは2から始め、最初に出てくる白鍵を1にする
変ロ長調は始めの音が黒鍵でしたが、2つめの音は白鍵でした。そのため、21でスタートします。その他、変イ長調(A♭-Major)・変二長調(D♭-Major)は始めの2音が黒鍵となり、231でスタートします。変ト長調(G♭-Major)は始めの3音が黒鍵となりますので、2341でスタートします。これは「音階の原則3:黒鍵→白鍵または白鍵→黒鍵のときに指を返す」が身についていると、自然とできるようになります。
イ短調(A-minor)の和声的短音階(Harmonic minor scale)を弾こう
ここまで、長調の音階を見てきましたが、短調の音階も見ていきましょう。短調には3種類の音階があります。
・和声的短音階(Harmonic minor scale)
・旋律的短音階(Melodic minor scale)
・自然短音階(Natural minor scale)
さらに、旋律的短音階は上行形と下行形で違います。なぜこのようなことになってしまったのでしょうか?
まず、ハ長調(C-Major)の音階の第6音から音階を作るとイ短調(A-minor)の自然短音階ができあがります。
ところでハ長調の場合、シ→ドと主音(音階の始めの音)に上がるときに半音になります。これが主音の安定感をもたらしていますが、イ短調の場合、ソ→ラが全音なので、安定感が少なくなっています。そこで、ソに♯を付けて半音にします。このソ♯のことを導音と呼びます。このようにしてできた音階が和声的短音階です。
和声的短音階の名称の通り、これは和声をつくるための音階という側面が強いですが、一方で旋律にもよく出てきます。これを弾く練習をしましょう。
第6音と導音は、増2度という広い音程になっており和声的短音階を弾くのが難しい原因の一つになっています。ここで指を返すのはできる限り避けた方が良いでしょう。
音階の原則6:広い音程(和声的短音階の増2度)では指を返さない
和声的短音階をスムーズに弾くコツは何と言っても増2度をどう処理するかです。指使いを想像してから弾くようにすることで弾きやすくなります。
例外:変ホ短調(E♭-minor)は黒鍵が3つ連続した後に増2度があるため、左手はどうしてもこの増2度で指を返すことになります
イ短調(A-minor)の旋律的短音階(Melodic minor scale)を弾こう
和声的短音階の増2度はかなり特徴的で、不自然といえるほどです。そこで、第6音も半音上げることによって滑らかに導音につなぐようにしたのが旋律的短音階です。また、導音は半音上がって主音に行く傾向が強い音ですから、下行するときは導音の♯が消え、自然短音階と同一になります。
増2度がないため指にも馴染みやすい音階ですが、上りと下りで違う音階というのはクセが強いです。良く練習し、響きに慣れて、考えなくても弾けるようになるまで練習しましょう。
原則を応用して様々な音階を弾く
ここまで、基本的に練習するべき音階3つ(長音階、和声的短音階、旋律的短音階)を挙げました。そして、紹介した原則は6つです。
音階の原則1:オクターヴで繰り返し
音階の原則2:指を返すときは3か4から1、または1から3か4
音階の原則3:黒鍵→白鍵または白鍵→黒鍵のときに指を返す
音階の原則4:黒鍵を1で弾かない
音階の原則5:黒鍵で始まる音階の右手の上りと左手の下りは2から始め、最初に出てくる白鍵を1にする
音階の原則6:広い音程では指を返さない
これを利用すると、様々な音階の指使いを決めることができます。
5音音階(Pentatonic scale)
5音音階は様々な種類が有りますが、Cから始まるヨナ抜き(長調から第4音と第7音を抜いたもの)を弾いてみましょう。音階の原則1:オクターヴで指の繰り返しを考えると、音階の中に音が少ない5音音階は何度も指を返すことになり大変です。
半音階(Chromatic scale)
半音階は基本的に白鍵と黒鍵が交互に出てきます。そこで、白鍵は1、黒鍵は3を基本にして、白鍵が連続するところだけ2を使うように弾きます。非常に良く出てくる音階ですので、早めにこの感覚に慣れておきましょう。
半音階にはほかにも様々な指使いがあります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
全音音階(Whole tone scale)
全音音階は全ての音程が全音となっている音階のことで、ドビュッシーが多用しているほか、ジャズでもよく使われます。Cから始まる白鍵3つ・黒鍵3つのパターンと、C♯から始まる白鍵4つ・黒鍵2つのパターンがあります。白鍵4つ・黒鍵2のパターンは、123-123-と繰り返すだけで弾けますが、白鍵3つ・黒鍵3つのパターンは、13-1234(または12-1234)というアンバランスな形で弾かなくてはいけません。
半-全 音階 (Combination of diminished scale)
半音と全音を交互に繰り返すと半-全音階が出来上がります。独特な響きがする音階です。
まずどの音を弾けば良いのかがなかなか分かりづらく、慣れるまでに時間がかかります。一旦慣れてしまうと、1-2-3と1-3の二つを組み合わせることで半音階のように簡単に弾くことができます。
ここまで様々な音階を紹介してきましたが、まずは一日1個、なんらかの音階を練習することで、だんだんと原則が身体に染みついてきます。音階が弾けるようになると、あらゆるパッセージを弾くときに役に立ちます。
一歩一歩の練習が大切です。