Adagio(アダージョ)やAllegretto(アレグレット)といった速度記号ですが、なかなか意味を把握するのは難しいですよね。それに、Moderato(モデラート)とAndante(アンダンテ)はどっちが速いの?というのもすぐには出てこない人が多いのではないでしょうか。これら速度記号の意味を一挙にご紹介します。なお、結論から言うと、一般的には速い順に以下のようになっています。速さだけを今すぐ知りたい方はこちらを参照してください。

↑速い

Prestissimo(非常に速く)

Presto(速く)

Vivace(活発に)

Allegro Vivace(快活・活発に)

Allegro(快活に)

Allegretto(やや快活に)

Moderato(中庸に・節制をもって)

Andantino(ややゆるやかに)

Andante(ゆるやかに)

Adagietto(ややゆったりと)

Adagio(ゆったりと)

Largo(幅広く)

Lento(遅く)

↓遅い

molto(とても)

un poco(少しだけ)

più(より~)

meno(より~なく)

速度記号をより身近に感じよう

これらの言葉はすべてイタリア語で、意味が分からないとただの呪文のようですね。実は、単純に速さを表している言葉は「Presto」と「Lento」だけで、それ以外の言葉は、他に意味があります。

日本語で「落ち着いて」というと「遅く」以外の意味を感じることができますよね。そのような言葉の意味を知ると、より身近に速度記号を知ることができるようになります。

基本のテンポを表す言葉

まずは、以下のテンポを表す言葉の説明をします。

・Presto

・Vivace

・Allegro

・Moderato

・Andante

・Adagio

・Largo

・Lento

PrestoとLento 速さをそのまま表す言葉

「Presto(プレスト)」は「速く」の意味です。

あと5分で出かけないと学校に遅刻してしまう子供が、まだ起きてきません。お母さんが「Presto! Presto!」と急かします。このようなイメージです。

語源は英語の「Press」(押す)と同じで「押し出していく」「圧迫する」という意味から「速く」の意味が出来上がりました。

「Presto」にはちょうど対義語があり、それが「Lento」です。「ゆっくり喋ってください」とイタリア語で言うときは、「Parla più lentamente per favore.」と言います。「lentamente」は「Lento」の副詞形で動詞「Parla」(話す)に付く言葉です。

「Presto」と「Lento」は、音楽の世界では、かなり極端に演奏されます。余計な意味がない分、純粋に「速い」「遅い」を表現することになります。もし楽譜に「Presto」と書いてあれば、自分が演奏可能な最高速度で弾いて良いでしょう。

ユダヤ人作曲家アルカンの「短調の練習曲6番」は「Presto」となっており、その速さには圧倒されます。

ストラヴィンスキーの「二台ピアノのための協奏曲」4楽章より、「前奏曲」は「Lento」で始まります。重厚さを感じさせるのが「Lento」ですね。

Moderato 中庸な・節制を持って

次に「Moderato(モデラート)」を紹介します。英語の「Moderation」と同語源で、「中庸な」「節制を持って」という意味になります。さらにたどると「medical」(医療の)なども同語源となり、「抑える」という意味が本質になります。

音楽においては、速くも遅くもなく、という意味で使われることになります。難しいのは「Molto moderato」(とてもModerato)と言われたときですね。これはどのように考えればいいでしょうか?「とても中庸に」は意味が通じませんが、「とても節制を持って」と考えればスッキリします。ただの「Morerato」より遅いイメージになりますね。

ただし、遅くなりすぎればそれはそれで節制がありません。偏り過ぎないことも大切なのが「Moderato」です。

ショパンの「ワルツ Op.69-2」です。途中では「con anima」(動きを持って)とありますが、全体的に速すぎも遅すぎもしない、節制のあるテンポであることがわかります。

Vivace 快活に・活発に

「Vivace(ヴィヴァーチェ)」は「快活に」「活発に」といった意味があります。イタリア語の「Viva!」(万歳!)と同語源で、語源をたどると「生きる」「生活する」という意味に行き付きます。そこから「生き生きとした」あるいは「活発に」という意味になり、音楽用語の「Vivace」は次に解説する「Allegro」よりも速いイメージがあります。

バッハの「二台のヴァイオリンのための協奏曲」です。十六分音符の細かい動きがまさに活発な感じを表していますね。

Allegro 快活に・速く

「Allegro(アレグロ)」は音楽の用語ではもっぱら「速く」の意味で使われます。ただし、「急いでいる」というよりかは「活発に」という速さです。堂々とした曲で使われることも多く、交響曲の一楽章はAllegroであることがとても多いです。

イタリア語の意味は「元気よく・快活に」といった意味となり、対義語は「Triste」(悲しい)です。このように対義語を見ると、より「Allegro」の本質的な意味がわかってくるかもしれません。

ブラームスの「交響曲1番」の主題は「Allegro」となっていて、交響曲の第一楽章に相応しい堂々とした音楽によく合っています。

Andante 歩くように・穏やかに

「Andante(アンダンテ)」は比較的ゆっくりなテンポを表します。語源はイタリア語の「andare」(歩く)となります。一歩は大体0.6秒から0.8秒と言われており、メトロノームになおすと75~100となりますが、「Andante」は必ずしもこの速さというわけではありません。「急がずにゆっくりと進む」という意味で使われます。大切なのは、「遅い」という意味がこの言葉に入っているわけではなく、あくまで「進む」意味があるということです。「Andante」とあったら急いではいけませんが、停滞することなく進んでいくイメージで演奏しましょう。

ベートーヴェンの「ピアノソナタ13番」はのんびりと散歩するようなテンポではじまります。とはいえ停滞することはなく、まさに「Andante」に相応しいテンポといえるでしょう。

Adagio ゆったりと・くつろぐように

「Adagio(アダージョ)」はイタリア語で「ゆっくりと」という意味がありますが、語源をたどると「Ad」(~へ向かう)+「agio」(快適・くつろぎ)という成り立ちとなり、「ゆったりと」あるいは「くつろぐように」という意味で捉えると良いでしょう。古典派の交響曲やソナタでは、美しくゆったりと歌う曲想で「Adagio」と指示することが多いです。逆に静謐さや、重厚さを伴った「ゆっくり」な楽想には「Lento」や、後に紹介する「Largo」を使うことが多いです。「Adagio」はたっぷりと歌うイメージがあり、遅すぎて停滞することは無いようにするべきです。

ロシアを代表する作曲家ショスタコーヴィッチの後期の作品は「Adagio」が頻繁に使われますが、この曲はなんと6楽章全てが「Adagio」となっています。1楽章は「悲歌」とタイトルが付けられていて、悲しみを伴った歌はまさに「Adagio」と呼ぶに相応しい音楽になっています。

Largo 幅広く

「Largo(ラルゴ)」は英語の「Large」と同語源で、「大きい」「幅広い」といった意味があります。「幅広い」という意味で「ゆっくり」という意味を表すようになり、直接的に「遅く」という意味はありません。「Presto」や「Lento」といった直接速さを表す言葉を使わないことによって、ゆっくりなテンポのなかでも、自然な音楽の流れと結びつくわけです。

ショパンの「ラルゴ」です。祈りの音楽の響きが広がっていく様が、まさに「Largo」ですね。

イタリア語の接尾辞

イタリア語の特徴として、語尾に決まった形(接尾辞)が付くことによって、意味が弱められたり強められたりします。

とくに音楽で良く使われるのは次のようなものです。

「~issimo」(非常に)

「~etto」(少し)

「~ino」(小さな)

たとえば、「forte」(フォルテ・強く)に対して「fortissimo」(フォルティッシモ・非常に強く)となるのは良く使われますね。

これらの接尾辞は速度を表す言葉にも付けられます。ただし、「Prestissimo」と言うことはあっても「Prestetto」ということはありません。ここからは、良く使われる接尾辞の使い方をご紹介します。

Presto(速く)→Prestissimo(プレスティッシモ・非常に速く)

Vivace(活発に)→Vivacissimo(ヴィヴァーチッシモ・非常に活発に)

Allegro(快活に)→Allegretto(アレグレット・やや快活に)

Andante(穏やかに)→Andantino(アンダンティーノ・やや穏やかに)

Adagio(ゆったりと)→Adagietto(アダージェット・ややゆったりと)

Largo(幅広く)→Larghetto(ラルゲット・少し幅広く)

ベートーヴェンの「Prestissimo」の例。「非常に速く」というだけあって、恐ろしいほどの速さを持つ演奏となっています。

イタリア語の副詞(形容詞)

英語でいう「very」(とても)や「a little」(少し)は副詞と呼ばれます。副詞とは、動詞や形容詞、または文全体に意味を追加するための言葉です。イタリア語の副詞をいくつか覚えておくだけで、かなり読めるようになるイタリア語の楽語が広がります。

molto ↔ un poco

「molto(モルト)」は「とても」、「un poco(ウンポコ)」は「少し」の意味があります。「poco」だけだと「少ししか~でない」、の意味になります。副詞は基本的に文中のどこにおいても良いため、「Allegro molto」も「Molto allegro」も可能です。

Allegro molto(アレグロモルト とても快活に)

Un poco adgio(ウンポコアダージョ 少しゆったりと)

più ↔ meno

「più(ピウ)」は「より~」、「meno(メノ)」は「より~なく」を表す比較級の言葉です。

これは以前に比べて今回は、という意味があり必ずしも本体の楽語と一致しないことがあるので注意です。

たとえば、「Lento(遅く)」からpiù presto「より速く」と言われても、「presto」にははるかに及ばず、「Lento」よりも速い「Andante(ゆるやかに)」くらいになるイメージです。

また、「meno(メノ)」は言葉の意味が逆転してしまうので注意です。あまり使われることはありませんが「meno presto」と書いてあったら「より速くなく」、つまりゆっくりと演奏することになります。この二つの言葉は速度では「mosso(動きのある)」を用いて次のように使われることが多いです。

più mosso(ピウモッソ・より速く)

meno mosso(メノモッソ・より遅く)

この二つの用語が現れたら、前の部分とは楽想がはっきり変わったと分かるほど速度を変更させるのがポイントです。逆に前の部分より速くしたいけれども、極端にしたくない場合は、次のような使い方もします。

un poco più mosso(ウンポコピウモッソ・すこしだけより速く)

sempre più Allegro は「常により速く」という意味で、緩めることなく早くし続けなさい、という意味です。これでPrestoに突入していくのはカッコいいですね!

速度標語の結合

速度標語は二つが結合することがあります。結合した場合は、大体その中間と思っておくとよいでしょう。

Allegro vivace(アレグロ・ヴィヴァーチェ):Allegroよりは少し速い

Allegro moderato(アレグロ・モデラート):Allegroより少し遅い

速度標語を知って、曲をより生き生きと演奏しよう

メトロノーム記号「♩=120」といった表記は分かりやすく、正確に演奏できるようになりますが、一方でその速さに付属しているイメージまでは書かれていません。

逆に、「Allegro」と書かれていたら、その曲のイメージの助けにはなりますが、正確な速さがわかるようになるわけではありません。「Allegro ♩=120」と書かれていれば、その両方がわかり、演奏にはとても助けになりますが、縛られすぎているようにも感じますね。

これは作曲家がどれほど演奏者に楽想を伝えたいかによって、どう書かれるかは決まってきます。

楽譜に「Allegro」と書かれていたら、ただ「速めに」演奏するのではなく「快活に」演奏するように心がけてみましょう。