ピアノを弾くときに指使いはとても大事です。楽譜に元から書いてあれば良いのですが、自分で編曲したり、耳コピしたりするときには自分で決めなければいけませんし、そもそも指使いが書いてない楽譜もあります。今回はどのように指使いを考えていけばよいのかをみていきましょう。

人によって変わる指使い

実は、誰に対しても良い絶対的な指使いというものは存在しません。人によって手の大きさや形は違いますし、関節の柔らかさも異なります。一般的に弾きやすい指使いというものはありますが、弾きづらいと感じたら自分で指使いを変えても全く問題ありません。しかし、変えた結果逆に弾きづらくなっていることに気づかない場合もありますので、初心者のうちは楽譜通りの指使いを守るとよいでしょう。

原則

指使いにはいくつかの原則があります。それを挙げていきましょう。

・なるべく動きを少なく

・親指は白鍵

・一つの指を連続して使わない

なるべく動きを少なく

手首の動きが大きくなってしまったり、必要以上に指が激しく動くと、ミスタッチの原因になりますし、疲れやすくなってしまいます。

藤井風さんの「死ぬのがええわ」からサビの部分を抜粋して研究してみましょう。

けだるい雰囲気で滔々と流れていく音楽がカッコいいです。サビの部分は転調して、このような旋律になっています。

細かく動いていますが、これをピアノで弾くとしたらどのような指使いが良いでしょうか。たとえば始めの小節では、シ・レ・ミ・ソの4つの音が使われていますので、これを1・2・3・5に当てはめてみます。

このように2小節目の最後の音の手前まではこのまま弾くことができますが、最後のソを弾くことができません。ここで、指を返して2で弾くことはできますが、少し動きが多くなってしまいます。

特に、1-2が連続してしまって弾きづらそうです。ここから改善案を考えてみましょう。

3小節目の始めのラシを1-2で弾くのではなく、3-4で弾くことができそうです。こうすれば、指を返す動きを一回減らすことができます。

しかし、まだ弾きづらい感じが残ってしまいますね。やはり、3小節目最後シからソへ3度の音程で指を返すのが良くなかったのです。そこで、2小節目4拍目のミを4で取ってしまうと、ミレシソを4-3-2-1で弾くことが出来てスッキリします。

こうすることで、指を返す回数が1回になり、弾きやすくなります。

指を返す回数が少なくなると、鍵盤を見なくても弾けるようになり、楽譜を見続けられますし、ミスタッチも減り、音の繋がりも良くなるため、メリットしかありません。

なお、2小節目4拍目のポジション移動を減らすために、始めからソシレミソを1-2-3-4-5に当てておくこともできます。

こうして指使いを作ると、さらに移動が少なくなります。

この指使いも悪い指使いではないのですが、少しやりすぎで、4-5を常に広げる必要があり、さらに1を使わないことで力のバランスが崩れやすく、疲労の原因となります。また、3-4の動きが多くなり、指の独立がしっかりできている方でないと弾きづらく感じると思いますので、あまりお勧めしません。

親指は白鍵

5本の指のうち、親指だけは短く関節の動く方向も違います。その性質上、親指で黒鍵を弾くと、どうしても手首が高くなり奥に行ってしまうため、他の音が弾きづらくなります。

YOASOBIさんの「夜に駆ける」のサビの旋律で指使いの研究をしてみましょう。

まずは何も考えずに弾くと、このような指使いになるかもしれません。

この指使いでも弾けないことはないのですが、手首をかなり奥の方にもっていき、白鍵はつねに黒鍵と黒鍵の間の狭い部分を弾くことになります。とくに白鍵のファから黒鍵のミ♭への指使いが2-1、というのはかなり弾きづらく、隣の鍵盤に触れてしまうミスタッチが起きやすくなります。そこで、できる限り親指が白鍵に来るような指使いを考えてみましょう。

まず、冒頭の旋律は、5から始めることによって、1を使わないようにします。また、シ♭の連続は指を変えることで余計な力を使わずに次のポジション移動の準備ができます。

そして、次の旋律はファを1にして、その下のミ♭を2で取ることで、指の形にあった弾き方にすることができます。

次の旋律は、2-5-3と始め、ファに親指を当てることで、親指に黒鍵が来ないように弾くことができます。

これで良い指使いとなりました。白鍵は手前のほうを弾くことができますので、大きい音も出しやすく、サビの盛り上がりを表現しやすくなっています。

一つの指を連続して使わない

ピアノの鍵盤を弾くという動作は、基本的に3つの段階に分けられます。

・鍵盤の上に指を置く(確保)

・指で鍵盤を押す(押下)

・鍵盤を上げる(リリース)

場合によっては確保をしないで演奏することもありますが、音色が不安定になり、ミスタッチの原因ともなるので、なるべく確保をすることが大切になります。

しかし、速いパッセージを演奏するときは、前の音を弾いてから確保するのでは間に合いません。前の音を弾いているときにはすでに確保できている必要があります。

モーツァルトのトルコ行進曲の中間部分の一部分を見てみましょう。

もっとも有名なピアノ曲ですが、弾きこなすのは大変です。今回取り出す部分は次の部分です。

ここまでは指使いを決めやすいのですが、次のラの連続をどのようにすればよいでしょうか。

ここで、もう一度5の指を使って弾こうとすると、一旦小指を上げてもう一度下ろすという動作が必要になりますが、前もってラの上空で4が待機しておき、5の指はラを引っかくように下に逃げ、上がってきた鍵盤をそのまま4で弾きなおすと速度を緩めることなく弾き続けることができます。

その次のミの連続も、親指から小指に受け渡してあげるように弾くと、綺麗につなげることができます。

気持ちよく音階の最後のラまで弾ききることができましたが、さらに高い次の音、ラ♯がありました。これをもう一度5で弾いてしまうのはいかにも苦し紛れです。この時は、ラ♯が黒鍵であることを利用して、3で弾くと綺麗に行きます。

多少指が飛び、大きな音が出てしまいやすい指使いですが、このラ♯は特徴的な音で、少しアクセントが欲しいため、むしろ音色にあった良い指使いとなります。

決まった指使い

このような音形のときはこの指使い、と半ば習慣的に決まっているものがあります。これは普段から練習しておくことで、楽に弾けるようになります。

たとえば、半音階は次のような指使いで弾きます。

音階や、アルペジオなど、様々な技術に対して決まった指使いがありますので、『ハノンの練習曲』などで練習するとよいでしょう。

特殊な指使い

難しいパッセージや、非常に早い音形が登場したときなど、その音形専用の指使いを開発する必要があることがあります。このようなときは柔軟に考えて合理的な指使いを探していきましょう。

・黒鍵から白鍵に指を滑らせる

特に親指を滑らせる指使いはよく使います。この指使いに慣れると綺麗なレガートを作ることができます。

・規則的に繰り返す

速い音楽の場合は、黒鍵や白鍵を気にせず規則的な指使いで弾くことがあります。考えることが少なくなり、ミスタッチも少なくなります。

・もう片方の手に助けてもらう

左手を大きく広げないといけないときや、旋律が大きく飛ぶときは自由にもう片方の手に助けてもらいましょう。たとえば、幻想即興曲の中間部分にはこれを便利に使うことができます。

この緑色の部分は手を大きく広げないと届きませんし、届いたとしても左手がぶつ切りになってしまいます。そこで、次のように弾くと、楽に滑らかに弾くことができます。

これを身に付けると、伴奏や旋律の幅が広がり、ダイナミックな演奏をすることができるようになります。

指使いの考え方

指使いは合理的であればどのようなものでも構いません。筆者は、同じ曲を弾くときですらピアノの状態や、その日の気分によって指使いを変えることがあります。基準となる考え方をリストにしましたので、これを参考にして様々な指使いを試してみてください。

・なるべく動きを少なく

→ミスタッチを減らすことができます

→疲労を減らすことができます

・5本の指をまんべんなく使う

→滑らかな旋律を作りやすくなります

→疲労を減らすことができます

・曲想にあった指使いを考える

→原則から外れている指使いも積極的に試しましょう

発想が自由になれば、1本の指だけで旋律を弾いたり、1つの音を2本の指で弾いたり、逆に2つの音を1本の指で弾いたり、さらにはゲンコツや手のひらで弾くなど、アイディアは無限大です。遊び心を持って指使いを開拓していきましょう。