テレビやコンサートで演奏を聴くとき、最初にオーケストラの全員が楽器を鳴らしていませんか?
この時にやっているのが、チューニング(調弦)。
皆で基準になる音を共有して、一緒に弾く時に綺麗に響くように、直前にチューニングをしています。
基準になる設定音がめちゃくちゃになっていると、正しい場所に指を置いても、音痴に聞こえます。
ピアノは鍵盤を叩けば正しい高さの音がなるように、調律師さんがチューニング(調律)してくれますが、ヴァイオリンは自分で行います。
そんな大切な調整を自分がするのは、難しそうに感じますが、コツをつかめばバッチリできるようになります。
むかしは音叉(おんさ)という金属の器具を鳴らして、耳を頼りにチューニングをしていました。
しかし現代ではチューナーを使って目で確かめるながら調整できますので、音感が無くてもやり方がしっかり分かれば調弦可能です。
基準になる442Hzについて
チューナーの設定は、現在のクラシックでは基本的に442Hzにします。
時代によって基準の数字(Hz、ヘルツ)は違い、ヴィヴァルディやバッハの活躍したバロック時代(18世紀前半)は、415Hz、モーツァルトの活躍していたころ(18世紀後半)は、421.6Hz、ベートーヴェンの活躍していた頃(18世紀末~19世紀初頭)は、430Hzだったといわれています。
その後もピッチがどんどん高く設定される時代が続き、452Hzまで上がっていた時代もあったそう(!)。
452Hzというのは、「ラ」というよりは今だと「シ♭」に近いです。
現代で耳にするクラシックの名曲も、各時代の人達が聴いたら、高過ぎたり、低過ぎたりでビックリかもしれません。
音の高さについて
音の高さは、振動数(周波数)によって変わります。
数字が上がれば上がるだけ、音は高くなっていきます。
現代でバイオリンのA線(ラ)をあわせる基本となる442Hzは、1秒間に442回弦が振動して、空気が振動しているということです。
また同じ「A(ラ)」の音でも、数字が若干高い方が、少し華やかに心地よく聞こえます。
一方、NHKの「ポ、ポ、ポ、ピー」という時報音は440Hz。
440Hzと442Hzの違いは、初心者の方だと「こんな違い分かるものなの…?」となるかもしれませんが、神経を研ぎ澄ませて聞き続けると、微妙な違いがわかってくるかもしれません。
ヘルツを聞き分けるピッチテストがネットで楽しめるので、ご興味のある方はやってみてください!
それでは、実際にチューニングを始めてみましょう。
チューニングの手順
チューニングの仕方はA(ラ)→D(レ)→G(ソ)→E(ミ)の順番で行います。
アルファベットで表示されるのは、慣れないうちはややこしいですね。
そもそも「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」はイタリア語です。
A線やE線など「C、D、E、F、G、A、H、C」のアルファベット表示をしているのは、ドイツ語です。
ドイツ語での読み方は「ツェー、デー、エー、エフ、ゲー、アー、ハー、ツェー」と、あれ?!と思うような読み方をします。
はじめのうちは、チューニングで使うA(ラ)、D(レ)、G(ソ)、E(ミ)と、各線(弦)の位置関係を、覚えてしまいましょう。
基本の調弦
チューナーが正確に反応するように、弓はゆっくり動かし、大きすぎず小さすぎない適度な音量で音を出します。
目盛りが真ん中を指していたら、正解です。
左を指してる場合は低く、右を指してる場合は高いので、調整していきます。
チューニングの手段
チューニングは、楽器の先端にある「ペグ」と、コマの近くにある「アジャスター」の2種類でできます。
ペグは、弦が大きく緩んでしまっているなどで、大幅に音を調整するときに使います。
アジャスターは、半音程度のズレがある時、微調整として使います。
大幅な調整はペグ
A線(ラ)の音を弾いているのに、チューナーが「A(ラ)」ではない他のアルファベットを表示しているなら、かなり音がずれてしまっています。
この場合は、ペグで調整していきます。
ただし、目盛りがぴったり中央で止まるほど完璧に合わせるのは、なかなか難しいことです。
1~2mmの誤差は、許容範囲としておきましょう。
ペグ
ペグを使えば音の高さを一気に修正できますが、弦の張力を急激に上げたり(音を高くする)、急激に下げる(音を低くする)ことになります。
乱暴にやってしまうと故障の原因にもなるので、気をつけて慎重に行いましょう。
急に思いきり動かすと、弦が切れてしまったり、びろんびろんに緩んでしまったり、コマがばたんと倒れてしまう危険性があります。
ペグを動かすときは、ゆっくり少しずつ動かします。
少し動かしては弦を弾く、あるいは弓で弾いて、チューナーで確かめてみましょう。
楽器のコンディションや、湿度や乾燥によっては、「慎重に動かしてたのに、突然緩んでしまった!」ということもあります。
少しだけ内側に押し込みながら動かすと、固定しやすいです。
「A(ラ)」に目盛りが近づいてきたら、アジャスターで微調整します。
アジャスター
半音以内くらいのずれのときは、アジャスターで調整をします。
たとえばA(ラ)線の場合だと、
・G#(ソ#)~A(ラ)~A#(ラ#)
・あるいはA♭(ラ♭)~A(ラ)~B♭(シ♭)
の範囲の中にあるときは、アジャスターで調整することができます。
音を高くしたいときは楽器と向き合った状態で時計回りに。
低くしたいときは同じく反時計回りに回します。
アジャスターは1回転で半音近く、音が変わります。
慣れるまでは1/4回転ずつほど回して、コツを掴んでみてください。
チューニングで起こりやすいトラブル
たまにコマの状態も見てあげてください。
コマは楽器本体から、ぴったり垂直に立っている状態がベストです。
ペグをたくさん動かしているうちに、コマが斜めになってくることがあります。
その時は、垂直になるように慎重に少しずつ圧力をかけて修正します。
アジャスターがキツくなり、動かない
アジャスターを毎回まわしていると、きつくなり過ぎてしまったり、反対に緩みすぎてしまうことが時々起きます。
そんなときは一旦、音程のことは考えず、動かしやすい固さに戻してください!
それからペグで調整を行って、もう一度アジャスターで調整するようにします。
トラブルが起きないように、普段出来ること
楽器を放置しておくと、ケースを開けたらだいぶ狂っているということは多いです。
調弦で対処できるのですが、なるべくコンディションが悪くならないように、置く場所に気をつけてみましょう。
倒れて衝撃が起こってはいけないので、立てて置かないように。
また、空調が直に当たるところや、床暖房のついてる床に置いたり、湿気がある水回り付近などには置かないようにしましょう。
私たちが生活するのに快適なところが、楽器にとってもベストです。
最後に
プロのヴァイオリニストが、楽器を顎で挟んで、弓を動かしながらチューニングしている様子を目にすることがありますが、慣れないうちはハードルが高いです。
慣れるまでは「一度弓と楽器を置く→ペグやアジャスターを動かす→再度、音を出してチューナーで確かめる」という流れがオススメです。
コンクールや発表会でも「最初の一音でだいたいわかる」とすらよく言われます。
それほどチューニングが綺麗に出来ることは、大切なことです!
普段の自分だけの練習でも訓練と思ってしっかり調弦をして、コツを掴んでいきましょう。