グランドピアノのペダルは、最近のモデルでは3つのペダルがあることがほとんどです。しかし、9割以上は一番右のペダルを使うのではないでしょうか。今回の記事ではほとんど触れられることのない、そもそもどのような機能なのか知らない人も多い、真ん中のペダル「ソステヌートペダル」について解説をします!
ピアノの3つのペダル
ピアノのメーカーやモデルによっても異なることがありますが、ピアノのペダルは3つであることが多いです。
アップライトピアノの場合は、通常は左から次のようになっています。
・弱音ペダル
ハンマーを弦に近づけることによって勢いを無くし小さな音にする
・消音ペダル(マフラーペダル)
ハンマーと弦の間にフェルトを挟み込むことによって音を極めて小さくする。左側にスライドさせ、ペダルをロックすることができる
・ダンパーペダル
響きを止めるためのダンパーを外しっぱなしにすることで、音が鳴り続け、響きも豊かにする
そして、グランドピアノのペダルは、通常左から次のようになっています。
・弱音ペダル(ウナ・コルダ)
ハンマーの位置をずらすことによって、弾いたときに3本の弦に当たるところを2本の弦のみに当たり、音が小さくなる。またハンマーの普段使わない柔らかい部分で打つことになるので、音色も変化する
・ソステヌートペダル
今回の主役。上がりきったダンパーを上げた状態で止める
・ダンパーペダル
全ての弦のダンパーを上げて、音が鳴り続け、響きも豊かにする
このように、アップライトピアノとグランドピアノでは、真ん中のペダルだけ大きく役割が違います。しかし、踏んでも特になにも変化が起きないため、何のためにこのペダルがついているの?と思う方も多いでしょう。
このペダルはソステヌートペダルという名前がついています。さて、このペダルを見ていきましょう。
ソステヌートペダルの機構
ピアノのアクションは非常に複雑ですので、それをいちいち解説するのは大変なのですが、簡単にいうと、上がりきったダンパー(音の響きを止めるためのフェルト)が、鍵盤を離したり、右ペダルを外しても降りてこなくなります。
ポイントは、鍵盤を弾いてからソステヌートペダルを踏み、それから鍵盤を離しても、鍵盤を離したところでは何も起きないということです。ソステヌートペダルを踏んでいる以上、音が鳴り続けます。
どういう時に使うの?
機構はわかったとして、どのような時に使えばよいのでしょうか。一番良く使うパターンは、ベースが伸び続けていてほしくて、右手が濁りたくないときです。
たとえば、ショパンのノクターン14番は、左手が広い和音のアルペジオで、右手は流れるような旋律になっています。左手のアルペジオにはペダルをかけたいですが、踏み続けてしまうと右手が濁ってしまいます。
こんなときに、ちょうど良いタイミングでソステヌートペダルとダンパーペダルを踏むと、まるで左手だけにペダルがかかったかのような効果を生み出すことができます。
非常にタイミングがシビアですが、次のように演奏します。音符から伸びている青い線は指で伸ばす長さ、緑がソステヌートペダルを踏んでいるタイミング、ピンクがダンパーペダルのタイミングです。
右手でレガートをかけるために、ミ→レは若干被っています。そして、そのミが消える瞬間まで、左手の一音目のシを指で保っておきます(指で音を保つことを「フィンガーペダル」と言います)。右手のミが消えてから左手のシが離れるまでの時間にソステヌートペダルを踏みます。
すると、左手のシ・ファ♯と、右手のレのみがソステヌートペダルで伸びます。
ソステヌートペダルを踏んだら即座にダンパーペダルを踏みます。
また、右手のド♯が消えた瞬間にダンパーペダルを離します。
こうすることで、2拍目の終わる瞬間になっている音は次のようになります。
左手
シ・ファ♯:ソステヌートペダル
ソ♯・レ:フィンガーペダル
右手
レ:ソステヌートペダル
シ:フィンガーペダル
これだけ複雑なことを1秒強の間にやらなくてはなりません。ソステヌートペダルを踏むタイミングは0.1秒も無いでしょう。しかもこれだけのことをしながら、得られる効果は2拍目のわずかな時間の濁りを消すだけです。実際ここまで複雑なことをしなくても、フィンガーペダルと、ハーフペダル(ダンパーペダルを全部踏むのではなく、わずかに踏む)の組み合わせで濁りを消すことができ、そちらの弾き方をするピアニストのほうが多数派だと思います。
近現代の曲になってくると、もう少し活躍の場が増えます。たとえば、ドビュッシーの練習曲第8番「装飾音のための」の冒頭はソステヌートペダルが活躍します。
この左手の低音のファの音は、ずっと鳴っていて欲しいのですが、左手は良く動きますからペダルを踏みっぱなしにするわけにもいきません。このような時にソステヌートペダルが活躍します。
なお、ソステヌートペダルを踏んでいても、ダンパーペダルを同時に使う必要があります。さらにこの部分はppと極めて弱音ですから、弱音ペダルも使いたくなります。
この場合、ダンパーペダル、ソステヌートペダル、弱音ペダルの3つのペダルを全て使うことになってしまいます。つまり、右足でダンパーペダル、左足のつま先でソステヌートペダル、左足の土踏まずで弱音ペダルを踏みます。もはや曲芸ですね。
ソステヌートペダルの注意点
ソステヌートペダルは使いこなせると魔法のようにピアノの響きをコントロールできますが、どうしても不自然に聞こえてしまうことがあります。ソステヌートペダルを使っていることがあからさまにわかってしまうと、その音だけ機械的に聞こえてしまいます。
また、ダンパーペダルは音の切り方まで足で操作することができますが、ソステヌートペダルは外れるとダンパーが落ちるという仕組みですので、何音もソステヌートペダルで音を伸ばした後、ソステヌートペダルを外すと、「ぼすっ」という音が鳴ってしまいます。これを消すためには、ソステヌートペダルを離す直前にダンパーペダルに持ち替えるというテクニックがあります。
ソステヌートペダルの練習をしよう
基本的にほとんどの曲でソステヌートペダルを使う必要はありません。また、ソステヌートペダルは機械的な音になりやすく、ダンパーペダルのハーフペダルを使ったほうが良いことのほうが多いです。
ただ、ピアノ中級者・上級者になってきたら、選択肢の一つとして覚えてもよいかもしれません。
ソステヌートペダルの練習には次のようなものが効果的です。
他にも様々なソステヌートペダルの練習方法がありますが、まずはソステヌートペダルの仕組みを理解して、実際の曲で使えるかどうかを考えていくことが大切です。
ピアノの新しい世界をのぞいてみましょう!