よく聞く特殊能力「絶対音感」とは何なのか、いつどうやって身に付き、どんな良いこと悪いことがあるのか、詳しく見ていきましょう。

 

音がドレミで聞こえる

絶対音感の多くのパターンは、ピアノを弾いたら、ドレミで聞こえることです。

 

本当にピアノが「ドーーミーー」としゃべっているように聞こえるのです。

ピアノだけがそのように聞こえるパターンもあれば、他の楽器も同様に聞こえるパターンもあります。

絶対音感が強い人だと、車のクラクションや、バリカンの振動音などにも絶対音感が働きます。

 

一方で、ドアを閉める音や、物を落とした音などには絶対音感は働きません。

そもそも、このような音には音程が無いからです。

(音程がある音を楽音、無い音を非楽音といって区別します)

 

人の声に絶対音感が働くかどうかは難しい問題で、歌っているときには絶対音感が働くが、しゃべっているときには働かない人、一切絶対音感が働かない人、少し考えれば分かる人、など様々です。

 

「レーー」とドの音で歌うと絶対音感が働かない、なんてこともあります。

 

 

多くの場合身につくのは遅くても7歳くらい

 

絶対音感を持っている人の多くはピアニストです。

それも3~4歳の幼いころからピアノを習い始めている人です。

鍵盤に対して、ドレミを結びつけて教育を受けるため、ピアノが「ドーー」としゃべっているように聞こえます。

 

そして、絶対音感を持つほとんどの人が、絶対音感が無かったころの記憶を持っていないでしょう。

ある日突然ピアノが「ドーーレーー」としゃべり始めるのではなく、もともとそのように聞こえるのです。

 

 

ピアノ以外の楽器で幼少期から始める代表的な楽器といえばバイオリンです。

バイオリニストも絶対音感を持つ人は多いですが、ピアニストよりは少ないようです。

これは、バイオリンは、ピアノの鍵盤ほどドレミの位置がわかりやすくはないからでしょう。

 

 

このように、幼少期から楽器に触り、物心がつくころには絶対音感が身についているということがほとんどのようです。

8歳以降に絶対音感が身に付いたという人は本当にまれです。

 

 

黒鍵がわからないことも

絶対音感を持つ人でも、ピアノの白鍵には絶対音感が働くのに、黒鍵にはあまり働かないという人がいます。

たとえばピアノでレ♯の音を弾いたとき「レ シャープーー」としゃべるわけにはいきません。

しかし、これが「レーー」と聞こえてしまうと、レ♭なのかレ♮なのかレ♯なのかがわからなくなってしまうのです。

ミとファの間は半音しかないのに確実に判別できて、レ♭とレ♮とレ♯は判別できない、など音によって絶対音感の働き具合が違うことがあります。

ただし、これは何歳になっても訓練で識別できるようになります。

 

 

何が便利?

絶対音感があると何が便利なのでしょうか。

まず一つは、音楽を聞いたとき、すぐに模倣(いわゆる耳コピ)できるということです。

絶対音感が無いと、まず基準の音を探さなければならないので、少し時間がかかってしまい、その間に音を忘れてしまったりするので、その点では便利です。

また、楽譜を持っていなくても、他の音楽家が出した音がなんであるかわかるので、指示を出しやすい、など音楽の現場で役に立ちます。

 

 

何が不便?

では、絶対音感があるデメリットはあるのでしょうか。

たとえば、バロック音楽は現在のピッチ(A=440~444Hz)より半音ほど低いピッチ(A=415Hz)で演奏することがあります。

この時に、鍵盤と音が一致しなくて混乱してしまうことがあります。

また、クラリネット・ホルン・サックスなど、楽譜に書かれている調とは違う調で鳴る楽器(移調楽器といいます)の音がわからず、混乱してしまうことがあります。

また、調が違うと全く別の音楽に聞こえてしまうため、移調が苦手という人も多いようです。


vs相対音感

絶対音感の話を持ち出すと、よく相対音感という言葉を聞きます。

絶対音感とは基準の音がなんであるか与えられずに鳴っている音がなんなのかわかる能力のことですが、相対音感とは基準の音が与えられれば正確に鳴っている音との音程を把握できる能力のことです。

どんなピッチで演奏されていても相対音感を持っていれば正確に音程を捉えることができます。

これは何歳になっても訓練で身に着けられる能力です。

絶対音感は音楽性は無いが、相対音感は音楽性に直結する、という意見もよく聞きます。

絶対音感を持つ人は和声感を手に入れることはできない、という過激な意見もあるほどです。

 

 

絶対音感から抜け出したい

絶対音感を持つ音楽家が音楽を突き詰めていくと、絶対音感が邪魔になる、という壁にかならず突き当ります。

みんなに合わせたいのに、ピッチがA=440Hzからズレているので合わせづらい、とか、シ♯をシと聞くことができず、どうしてもドに聞こえてしまう、などといった問題が出てきてしまうのです。

しかし、物心がついたときから身についている絶対音感を手放すことはそう簡単にできることではありません。

 

 

絶対音感と相対音感の両立

このように絶対音感にも不便や悩みはあります。

しかし、これらは全て克服可能です。

当然のことですが、世界で活躍する大ピアニストも多くは絶対音感を持っていますから、絶対音感があったら良い音楽ができないということはありません。

絶対音感を一つの基準として道具のように使い、場面に応じて精密な相対音感で音程を捉え、曲全体の和声の繋がりを感覚的に捉えることは、しっかりと勉強し、訓練し、練習することで、必ずできるようになります。

絶対音感を、絶対善・絶対悪と捉えるのではなく、一つのその人の耳の性質と思うのが良いでしょう。

 

 

調の意味

ここで少し脱線して、作曲家が調を選ぶときにどのようなことを考えているのか、というお話をしましょう。

もし絶対音感がないのであれば、どんな調で書いても音楽に大きな影響は無いはずです。

しかし、作曲家は明確な意志をもって調を設定します。

それは絶対音感からくることもあれば、もっと別の理由もあります。

 

 

ハ長調は単純さ、無垢さ、の象徴である

これは絶対音感を持つ人にとってはよくわかることです。

黒鍵に絶対音感が働きにくいという話があったように、白鍵ばかりのハ長調は非常に基本的な調で、わかりやすいのです。

逆にハ長調を前面に押し出されると、安っぽい感覚に陥ってしまうことがあります。

 

ト長調、二長調、イ長調はオーケストラが良く鳴る

ピアノは全ての音が均一に鳴るように調整されている楽器ですが、ヴァイオリンは弦が4本しかないため、鳴りやすい音、鳴りにくい音があります。

また、管楽器は、♭が付いた音は鳴りづらくなります。

基本的にはピアノでいう白鍵の音はどんな楽器でも鳴りやすいのですが、ファ♯も同様に鳴りやすい音で、逆にミ♭は少し鳴りづらい音です。

こういう理由で、♯系の調であるト長調、二長調、イ長調は明るい曲、壮大な曲に使われ、♭系の調であるヘ長調、変ロ長調などは優しい音楽に使われる傾向にあります。

このイメージはピアノ曲の調選びにも影響があります。

 

 

変ホ長調は軍楽の調

特別な意味を持つ調もあります。

軍隊の音楽は、馬上で演奏するという性質上、ホルンの長さや、ティンパニの大きさに制約がありました。

そこで、ハ長調より高い(=楽器が小さい)変ホ長調が使われます。

そこから変ホ長調は軍楽の調となり、特別な意味を持つようになりました。

 

 絶対音感を持っていると、音楽を聞いただけでこれらのことを直感的に理解できることがあります。

もちろんこれも訓練や勉強の上に成り立つことです。

 

わが子に絶対音感を身につけさせたい!

絶対音感について語ってきましたが、あなたに絶対音感があれば一生ついてまわりますし、なければ、多くの場合は持つことは無いと考えられます。

ただ、小さな子供であれば絶対音感を持つも持たないもどちらもありえます。

もしピアノを3~4歳から学ぶのであれば、絶対音感が身につく可能性は十分にあります。

しかし絶対音感は、音楽をする上で必須のものでも邪魔なものでもありません。

絶対音感が無いから音楽には向いてない、絶対音感を身につかせないように気を付けよう、と善悪で考えるのではなく、音楽がいつも身近にあり、楽しめるものだ、と思えることが大切です。