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インタビューシリーズとして、Phonimの講座に出演する世界的なアーティストの皆さんから、主に海外での活動についてお話を伺います。
今回は歌の講座に出演する山本耕平氏!
2014年の二期会公演『ドン・カルロ』でいきなり主役に抜擢されて以来躍進を続ける、イタリアで学んだスター歌手。
生活のすべてをひたむきに音楽に傾ける山本氏の情熱から生まれる、素晴らしいお話を伺ってきました。
【ご注意】歌講座は近日リリースとなります。ご受講予定の方はページ下部よりフォニムのメルマガにご登録ください。
オペラ歌手の山本です。
つい先ほどまでレッスン構成にみんなで頭を悩ませてましたから、インタビューへの切り替えが大変ですね(笑)。
よろしくお願いします。
僕は、男性の中で高い声を担当しているテノールで、若い役だったり王子様だったりといったことが多く、舞台上でよく恋をする役柄になります。
それに対して低い声の人は、悪役だったりお父さんだったり王様だったりといったことが多いのですが、そういうなかで、軽やかな役を多く担当していますね。
歌を始められたのは?
歌を始めたのは17歳、高校二年生のときで、クラリネット専攻として大学を受験するために必須だったということで、勉強をしはじめました。
変声期から数年ですから、まだ声が楽器としては落ち着いてない時期だったと思います。
声が完成するのは30歳だと言われています。技術的な変化は常にしますし、歳をとるにつれて声はどんどん変わっていきますので、固まったなと思う時というのはないんですが、30を過ぎたあたりで今の厚みが出てきたかな、と思っています。
特に印象深い舞台はありますか?
主演のデビューになった「ドン・カルロ」という舞台が、全身全霊で臨んで、大好きな作品でしたので、心に残っています。
29歳のとき、東京二期会の本公演で、主要な役でのデビューとなった作品です。
ヴェルディの傑作で、現実では幸せにはなれないながら、精神的に好きな人とつながって死んでいくという役で、それにすごく没入して取り組みました。
普段の練習についてお聞かせください
フォニムのコースは、単純なことからだんだん情報量が増えていくように企画したつもりなんですが、まさにそれをぎゅっと凝縮したものを僕もやっています。
ですから、ハミング、最初の点から始めて、だんだん要素が増えていく――子音が増え、実際の楽譜に沿って――このように最初の点に立ち返るようにして練習しています。
声を出すまでに、「身体を起こす」練習もします。小さな点から情報を多くしていく、そのような意識で練習していますね。
本番当日までの準備はどのような感じでしょうか
本番当日の練習も、普段の練習とほぼ同じルートをたどります。
加えて、昼の本番だったり夜の本番だったりしますから、一週間以上前から、どういう時間帯にどう過ごしていけば、本番当時にMAXの自分を持っていけるのかということを逆算するようにしています。
しかし、いつもそういうふうに上手くいくわけではありませんので、やはり毎日の練習と同じく、最初の点から情報を増やしてく、身体を起こしていく、ということを必ずたどります。
本番前日のご飯にこだわりはありますか?
声にいい食べ物ということを大変気を付けていた時期もあるんですが、今は良い発声で歌うということと、疲れ切ったりしないこと、ですね。
たとえば、みなさんが仕事をして、疲れたりするなかで「こういう条件だったら自分は調子がいいな」と思われていることがあると思うんですけど、それを僕も同じように気を付けてやっています。
歌のために気をつけるというよりかは、自分の身体が元気であるようにする、長生きできるようにする、ということ同源だと思います。
たとえば、パイナップルだったりキウイフルーツだったりとか、しびれる感じがしますよね。
ああいうのを食べると風邪をひいたときと同じような喉の感覚になってしまって、というのはあって避けたりもしますが、絶対に食べないかというとそんなこともなく、お弁当に入っていたらしっかり食べます。
それよりは、「自分の身体とか気分が絶好調でいられるもの」っていうのをひとつひとつ覚えていて、それをなるべく増やし、自分の身体に悪いものを減らす感覚です。
今の時代いろんなアレルギーの検査だったり、苦手なものの検査も出来ますので、自分が苦手なものをしっかり把握するようにしています。
それを避けると身体の調子がよくなるので、集中力が増して、最終的には歌にもいい効果があると、そういった気を付け方をしています。
オフの日はどのように過ごされますか?
…僕はあまりオフを作らないので、この質問は難しいんです(苦笑)。
譜読みとか暗譜をしていますし、オペラに必要な資料だったり映画だったりを見ていますし、関連する詩だったり歴史だったりを調べる時間にしていますね。
たとえば、同じ作曲家でも、違う編成の曲をなるべくたくさん聞いておいたほうが、作曲家の理解につながります。
曲を流しっぱなしにしておいて家事をしたりだとか、身体のトレーニングをしていたりだとか。
ですから、これはオンといえばオンだし、楽な恰好をして身体動かしているのでオフといえばオフですし、こういう時間は僕にとっては準備でもありますし、「やることをやっている」と思うことで心がリラックスしています。
少しワーカーホリック的な答えで、心配をかけるかもしれませんが(笑)
僕の中では、生活が歌を基本に広がっている、歌を通して世の中全体のものを楽しんでいるという感じですね。
やっぱり(歌、音楽が)好きなんですね。好きだから続けているんだと思います。
遠征の日もあるし、地方で演奏するような日は、その地方の日本歌曲だったりとか、そういうものを調べます。完全に歌と切り離されることは、なかなか無いと思います。
海外経験についてお伺いします
僕はイタリアに6年間住んでいました。
イタリアを中心にヨーロッパをめぐっていますが、一番長くいて、一番自分の生活に密接でした。
初めての海外生活で、なにもかも新しいという環境ですごく不安な思いをしたとか、自分が受け入れてもらえるのかとか、言葉がわからないとか、そういう苦労したということがまず最初の留学にありました。
初めて、そういった自分が慣れていない土地に身をおいたということが、ものすごくいい体験で、人にやさしくもなれるし、日本で働いている外国の方にも敬意を持つようになったし、違うものに飛び込む新鮮さとか喜びを感じるようにもなりました。
それから、もう少し慣れてきて、会話もできるようになってからは、後半住むようになったマントヴァという町で、本当に家族のような友達がたくさんできて、それが僕にとってものすごく財産になりました。
ほかの土地にいっても、こうやって心を通じ合うことができるんだっていう体験になって、「どこに行ってもどうにでもなるだろう」という、ポジティブな人生観を持つことができるようになりましたね。
フォニムで選んだ曲について
講座の中でも扱いますが、イタリア語のような外国語の曲がもつ発音の特徴と、日本語がもつ発音の特徴がすこし違うので、それをうまくグラデーションのようにつなぎながら歌うことが歌のヒントにつながります。
その言葉の意味を考えながら、深めながら、歌詞を味わっていくという点では、イタリア歌曲も日本歌曲も実は同じで、僕たちの身体や心の中から自然に出てくる表現というのが、声色になって外にでてきます。
そして、自然な表現をそのまま声色になって出やすくしてあげるのが、まさにこのフォニムの講座の力なので、ぜひ楽しんでほしいなと思います。
好きな楽器はなんですか?
学生時代クラリネットをやっていたので、クラリネットは大好きな楽器です。
僕がもし最初からサックスとかトランペットとか、一本で大きな音でヒロイックに演奏する楽器をやっていたら、そのまま続けてたんじゃないかな、と思います。
でも弦楽器もいいし、打楽器もカッコいいし…。もっと時間があったら、自分がやりたい楽器が山ほどあるんです。
ファッションについてこだわりはありますか?
僕の場合、ファッションに興味を持つようになったのは遅い方で、オペラを通じて服に興味が出始めたという感じなのです。
オペラでは伝統衣装を着ることが多いので、何世紀のこの土地はどのような服装だったのか、とか。本物を目指した衣装・演出なのか、ちょっとファンタジー物で、いろんな要素を混ぜているのか?といったことも演出家にお聞きします。
それによっては所作を完璧にするのか、現代的な所作にするのか、そういったことが決まってきます。
そういうきちんとしなきゃいけないときには、「ファイトディレクター」と言ういわゆる殺陣(タテ)を教えてくれる人が来て、刀を持っているときの歩き方など、指導も受けながら所作を決めていきます。
最近感動した景色・風景はありますか
和風のオペラで、上杉謙信の養子になった三郎景虎のオペラを3年前、2018年に歌ったことがあります。その舞台になった鮫ヶ尾城に最近上ってきました。
三郎景虎が見たであろう景色ですね。彼は小田原から来た人なんですけれども、この新潟県に初めてきて、不安になりながら見たであろう景色、もしくは第二の故郷として懐かしくなったであろう景色というのをようやく見てきました。
当時もしっかり映像などを見せていただいてやっていましたが、そこに実際に上って眺めを見て、遠くに直江津港が見えて、平野が見えてといった景色を見ながら、その登場人物のことを懐かしく思い出しました。
僕たちは役をやるときに町を見たりしてイメージを膨らませることがありますが、みなさんも思い出の景色などを投影しながら歌ってみると、やっぱり深みが増すかと思います。
講座を受講しながら、そういった楽しみを見つけていただけるといいなと思います。
結局すべて音楽につながっていますね
僕も普通高で文化祭だとか体育祭だとか、運動部にいたこともありますが、結局それを音楽に繋げて考えてしまいます。
「身体の使い方はこうだったな」とか「走るときのフォームはこうだったからスピード上がったな」とか、そういうこともオペラに結びついてしまうんですね。
建築家出身の演出家の方って実は多いんですが、舞台美術の方だったり、そういう方と話せるタイミングを狙って会いに行って、これはどうしてこうなっているんですか、などということを聞くのは面白いです。
例えば舞台美術で、「この場面で出てくるドアは、どういう意図があって、引き戸でなく押し戸としてデザインなさったんですか」と尋ねて把握しておくようなことが、本番で細かな所作や立ち回りに現れてくると考えています。
外国語には大変お詳しそうです
しっかり喋れるのは英語とイタリア語だけですが、読んだり相槌を打つくらいなら、フランス語・ドイツ語もいけます。
スペイン語・ポルトガル語はイタリア語と近いのでわかりますし、冗談で悪口を言ったものなら、お互い「聞こえてるぞ!」となりますね(笑)。
オペラをやる以上、言語はやらざるをえないですし、やればやるほどオペラの理解は深まります。
それでも、そもそも言語がわかっていなくてもネイティブのように聞こえるのが、大作曲家が書いた良い旋律だと感じます。
作曲家が良いイントネーションで書いていると、そうしゃべっているように聞こえます。
この前の公演のベルクの「ルル」だと、シュプレヒ・シュティンメ(しゃべるように歌うこと)で、音の高さが書かれていなくても、✕印でイントネーションが書かれています。
たとえばイタリア語でBuon giorno(こんにちは)という時、Buon giorno(↑)でも、Buon giorno(↓)でも良いわけですが、このときどのようなイントネーションで歌えばいいかが書いてあるわけです。
それで、どのような気分でしゃべっている言葉なのかが分かるわけですね。
普段テノールはハッピーな役柄というか、軽い役柄が多いのですが、ときおり重い役を演じるのも楽しいものです。
テノールのなかでも僕はテノール・リリコなんですが、バリトンから来ているのでスピントとかドラマティコと呼ばれる役の仕事も入ってきます。音色がちょっと太いというか。
ルルのときは、五線の下のAの音から五線の上のCisの音まであったので、すごく音域が広くて大変でしたが、それだけにやりがいがありましたね。