ピアノ初学者向けの教本といえば、バイエル、ハノン、ツェルニーなどが有名です。

最近ではさまざまな教則本がでていますが、やはり圧倒的にバイエルやハノンのほうが有名です。

これらの教則本はどのレベルから使えるのでしょうか?独学でも使えるのでしょうか?じっくりとみていきましょう。

 

なお、ここでのテクニックと情感の評価はその難しさではなく、重視しているかどうかの指標です。

 

バイエル

フェアディナンド・バイアー(Ferdinand Beyer)は1806年ドイツ生まれのピアニストです。

日本ではバイエルと呼ばれています。

「ピアノ奏法入門書 Op.101」というピアノ教則本を書きました。

これが日本で爆発的に用いられるようになり、日本ではじめてピアノを習うとなったらバイエルから始める人がほとんどでした。

世界で活躍する日本人ピアニストは多いですが、もしかするとバイエルのおかげなのかもしれません。

 

 

・丁寧な解説と、ステップ式の教材

バイエルの特徴は、まず右手でポジションを固定してゆっくりと一つ一つ音を弾く、というところからはじまり、次に左手のみ、両手になってもまず同じ動きから、ととても丁寧にステップアップできるようになっています。

また、楽譜の読み方、リズムの取り方、手の位置などの基本的なところから解説があり、本当にピアノを始めてすぐにとりかかることができます。

 

 

・基本練習が終わったら有名な旋律で応用できる

右手と左手と両手の練習ができた、となったら、そこでそれまでの技術を応用して、有名な民謡などの旋律を使って演奏します。

また、バイエルが作った曲も数多く掲載されていて、技術のみならず、情感も鍛えることができます。

 

 

・右手が旋律、左手が伴奏というのが基本

ピアノは初級者のうちは、右手は旋律、左手は伴奏というのが基本です。

バイエルもそれにのっとっています。

進めていくと、モーツァルトのピアノソナタで使われる技術を取り出したような練習もでてきます。

 

 

・分量が多い

はじめてピアノに触ってから、一通りの基本的なテクニックまでを丁寧に網羅していますので、分量は多くなっています。

この本で徹底的に学べるという意味では長所ですが、1年以上同じ教材を使うのでモチベーションを保つのがむつかしという人もいます。

他の教材も併用して使うといいかもしれません。

 

 

レベル:超初心者ー初級

時期:0ヶ月めー18ヶ月め

テクニック:★★★☆☆

情感:★★☆☆☆

対象年齢:3歳ー

独学:可能。

ただし、一部教師との連弾がある。

 

 

ツェルニー

カール・ツェルニー(Carl Czerny)は1791年オーストリア生まれのピアニストです。

ベートーベンに弟子入りをし、ベートーベンの曲を多く公演しました。

また、作曲家としても優れていました。

しかし、ピアニストとして活動するよりも、教育者となる道をえらび、ベートーベンの遺志をついでピアノ教則本を多く残します。

「100番練習曲」「30番練習曲」「40番練習曲は」現在でも多くのピアニストが通る道として、大切な曲集になっています。

 

 

・超初心者を抜け出してから弾いてみよう

ツェルニーの練習曲は「100番練習曲」→「30番練習曲」→「40番練習曲」→「50番練習曲」と難しくなっていきます。

この100や30といった数は、その曲集に掲載されている曲数です。

その最も簡単な100番練習曲でも、両手で演奏する形になっています。

また、解説はありません。

 

 

・優れた旋律

ツェルニーは作曲家としても優れておりましたから、簡単な旋律のなかにも優雅さがあります。

「30番練習曲」「40番練習曲」はテクニックのみならず、音楽をどのように構築するか、奏法と曲をどのように結びつけるか、ということも学ぶことができます。

 

 

・右手と左手両方バランスよく鍛える

「30番練習曲」「40番練習曲」の特徴的な点は、右手の練習曲のあとは同じテクニックをつかった左手の練習曲、と続いていることです。

右手と左手をバランスよく鍛えることができるため、リストのような技巧的な曲を練習するときの助けになるでしょう。

 

 

レベル:初級ー中級

時期: 100番練習曲  2ヶ月目ー2年目

           30番練習曲    2年目ー6年目

           40番練習曲    5年目ー10年目

           50番練習曲    8年目ー15年目

テクニック:★★★★☆

情感:★★★☆☆

対象年齢:6歳ー

独学:あまりお勧めしない

 

ドビュッシーがツェルニーをオマージュした曲を書いています

 

ハノン

シャルル=ルイ・アノン(Charles-Louis Hanon)は1819年フランスの生まれのオルガニストです。

Hanonはフランス語ではアノンと呼びますが、日本ではハノンと呼ばれ親しまれています。

「60の練習曲によるヴィルトゥオーゾ・ピアニスト」という曲集を書きました。

これは世界的に爆発的に売れ、現在でも非常によく用いられている練習曲です。

 

 

・徹底的なテクニックの練習

60曲におよぶ練習曲のうち、半分以上の36曲は右手と左手を全く同じで素早く動かす練習曲です。

そののち、音階の練習・アルペジオの練習・トリルの練習と、ひとつの技術を取り出して全ての指で弾けるように徹底的に練習します。

音楽性はほとんど排除され、とにかくテクニックの練習となっています。

 

 

・練習の目的がわかりやすい

ハノン自身が書いたコメントにより、この練習は何を目的とした練習なのかが明記されています。

ですので、弾きたい曲のなかで難しい部分がある、と思ったら、辞書のようにハノンの曲集からそのテクニックを探し練習することもできます。

 

 

・優れた音階練習

どんな楽器でも最も基本的で最も難しい技術といわれているのが音階です。

ハノンは長調と短調のすべての調での音階練習を書いおり、短調の練習曲は和声的短音階と、旋律的短音階のふたつを掲載しています。

指使いももっとも理にかなったものを採用しています。

また、音階練習の後にカデンツと呼ばれる和音が続き、調に対する感覚をやしなうことができます。

 

 

・全部弾いても一時間かからない?

ハノンはこの巻末に、「全て弾いても1時間あれば十分なので毎日弾きなさい」との旨の内容を書いています。

ただ、それはいくらなんでも不可能です。

譜読みが難しい曲はありませんので、ゆっくりと毎日いくつかの練習曲を弾くというのがよいでしょう。

 

 

レベル:初級ー中級

時期:1年目ー15年目

テクニック:★★★★★

情感:☆☆☆☆☆

対象年齢:6歳ー

独学:可能

 

ショスタコーヴィチが息子のピアノ練習のためにハノンを組み込んだピアノ協奏曲を書きました

 

バーナム

エドナ・メイ・バーナム(Edna Mae Burnam)は1907年アメリカ生まれの作曲家です。

「A Dozen A Day」という曲集が、日本では「バーナム・ピアノ・テクニック」という名で大変親しまれています。

棒人間でイメージ化することで、退屈になりがちなテクニックの練習を楽しくしています。

 

 

・ステップ方式のピアノ曲集

ピアノを始めてすぐに、この曲集で練習を始めることができます。

大切なテクニックを曲の中で自然に使い、ステップアップできるようになっています。

 

 

・棒人間のイメージで良い身体の使い方を学べる

なんといってもこの曲集の特徴は、曲ごとに登場する、かわいい棒人間です。

ただ無意味に置かれているだけではなく、指や身体の使い方、そして呼吸の感覚などを視覚的に表現しています。

また、タイトルも身体の使い方と連動しており、非常に理にかなっています。

 

 

・初級の終わりまでずっと使える

分量がしっかりあり、ほとんどのテクニックをカバーしておりますので、初心者を抜け出すまでずっとこの教則本を使い続けることができます。

最後まで弾き通すことができたなら、中級の入り口には立てていることでしょう。

 

 

レベル:超初心者ー初級

時期:0ヶ月目ー6年目

テクニック:★★★★☆

情感:★★★☆☆

対象年齢:4歳ー

独学:可能だが、指導者がいるとなお良い

 

その他の練習曲

その他にもたくさんの練習曲があり、大作曲家も練習曲を多く残しています。

このような練習曲は、内容も非常に優れているものが多いのですが、個性が非常に強く、またテクニックを学ぶという点では足りないこともありますので、併用して練習するのが良いでしょう。

また、練習曲という枠を遥かに超え、演奏会の中心となるような曲も少なくありません。

 

 

・シューマン「子供のためのアルバム Op.68」

一曲目はバイエルのような曲集を目指しているように思えますが、内容も高度で美しい曲が多くなります。

一方でテクニックの練習にはあまりむきません。

 

レベル:初級

時期:6ヶ月目ー6年目

テクニック:★☆☆☆☆

情感:★★★★☆

対象年齢:7歳ー

独学:難しい

 

・ブラームス「51の練習曲」

ブラームスの曲の中で使われるテクニックを取り出したような曲集で、難易度は非常に高くなっています。

中級になってさらに高度なテクニックを習得したいというときに良いでしょう。

 

レベル:中級ー上級

時期:10年目ー

テクニック:★★★★★

情感:★☆☆☆☆

対象年齢:14歳ー

独学:上級者が使う分には必要ないが、中級者には必須

 

・ショパン「12の練習曲 Op.10」「12の練習曲 Op.25」

ピアノのコンクールや入試に必ずといっていいほど選ばれる、非常に難易度が高く、また芸術として完成されている作品です。

一方で、テクニックの練習曲としてもよく考えられています。

クラシックのピアノ技術の集大成といっても良いでしょう。

 

レベル:上級ー最上級

時期:12年目ー

テクニック:★★★★☆

情感:★★★★★

対象年齢:15歳ー

独学:不可能

 

・リスト「超絶技巧練習曲 S.139」

ショパンのピアノ練習曲よりも技術的にさらに派手になり、リストの独特の和声感が加わった大曲集です。

「超絶技巧」という言葉はここから来ています。

 

レベル:上級ー最上級

時期:13年目ー

テクニック:★★★★★

情感:★★★★☆

対象年齢:16歳ー

独学:不可能

 

・ドビュッシー「12の練習曲」

ショパンの練習曲集をオマージュした12個の練習曲です。

前半の6曲は音程を重視しており、後半の6曲は近代的なピアノ奏法に注目しています。

解釈が難解な曲も多く、この曲集を弾きこなすには、幅広い音楽的な知識、繊細な聴覚、揺るがないテクニックが必要になります。

また指使いが一切ふられていないことも特徴です。

これはピアニストによって最適な指使いが異なるからです。

 

レベル:上級ー最上級

時期:16年目ー

テクニック:★★★★☆

情感:★★★★☆

対象年齢:20歳ー

独学:不可能

 

・バルトーク「ミクロコスモス」

近代ハンガリーの大作曲家バルトークによるピアノ初学者のための曲集です。

ただし、目指すテクニックは近代ー現代音楽を弾きこなすためのもので、常識にとらわれない幅広いテクニックを習得することになります。

クラシックピアノ上級者になってからでも、現代音楽を弾くために「ミクロコスモス」にじっくり取り組むというピアニストは少なくありません。

 

レベル:初級ー中級

時期:1ヶ月目ー

テクニック:★★★★★

情感:★★★☆☆

独学:不可能ではないが、指導者がいたほうが良い