オペラという言葉は聞いたことがあるけれども、実際に鑑賞したことは無い、という方は多いのではないでしょうか。そんなオペラの楽しみ方をご紹介します!
オペラって何?
オペラは日本語では「歌劇」と訳されるように、歌を中心に進行していく物語のことです。セリフは全て歌、というパターンもあれば、歌わずに演じられる場面が挟まることもあります。伴奏は大編成のオーケストラであることがほとんどで、歌手が演じる舞台の下に、オーケストラピットと呼ばれる箱状のスペースにオーケストラの団員や指揮者が入ります。オーケストラピットの中には60人ほどの楽員が入るのが普通で、西洋の芸術の中でももっとも規模が大きいものになります。
オペラの題材は神話や、文学作品といったようなもともと有名な物語からとられていたり、オペラ台本家による専用の台本であったり、作曲者自身が物語を書いたりすることもあります。一日のふとした瞬間を切り取ったような軽い話から、数十年に及ぶ伝説を壮大に語るものまで、物語の規模感も様々です。
全体の長さは短いものだと40分程度、長いものだと4~5時間に及ぶものもあり、16時から始まり夕食休憩を挟んで23時までかかるようなもの、さらに連作オペラでは上演に1週間ちかくかかるようなものまであります。
また、1幕という単位があります。1幕ごとに幕が下ろされることで、曲に一旦の区切りがつき、休憩が入ったりもします。1幕は大体40分から1時間程度で、全3幕のオペラ、全5幕のオペラ、などと言われると、大体の規模感が分かりますね。全5幕のオペラは非常に巨大な作品です。
オペラに近い形態を取る作品に、オペレッタやミュージカルがあります。これらは歴史的にオペラと切れない関係にあります。日本の伝統芸能では能もオペラに近い形態の作品です。
オペラの見どころ
とりあえずオペラに興味を持ったら事前知識なしで観劇してみるのが良いと思います。「オペラ 公演 チケット」で検索すれば、直近のオペラのチケットを見つけられるでしょう。・・・とは思うのですが、なかなか数時間の作品を見るのにも体力を使いますし、チケット代も高いことが通例です。踏み出すのにもすこし億劫になってしまうのもわかります。そこで、オペラの楽しい要素をいくつか取り出してみましょう。
舞台装置・演出
なんといっても圧巻な舞台装置はそれだけで非現実的な世界に引き込まれます。舞台上に作られた世界は、本当にもう一つの現実がそこにあるかのようです。現代風の演出では、プロジェクションマッピングを使ったり、煙幕とレーザーを組み合わせたりなど、技術を駆使した舞台装置を使うこともあります。
演出家によってはそのような過剰演出を嫌い、ごく簡素に済ませる場合もあります。どちらも良さがありますが、壮大な演出を求めていったのに舞台装置がほとんど無かった・・・ということが無いように、ホームページやチラシなどで雰囲気を前もって確かめておくと良いかもしれません。
歌手
オペラの中心はなんといっても歌手です。歌手は演劇と歌というふたつの芸術の要素を求められます。そして驚くことに歌手は通常マイクを使いません。2000人収容の大ホールで、オーケストラの大音量の伴奏の中、一人の歌手が細かい表現をしつつ声を隅々まで届ける技量は圧巻です。しかも演技をしながらです。ぜひそんな超越的な歌に注目して観劇してみてください。
衣装
オペラの世界観を作り出すのに大きな役割を買っているのが衣装です。とくにオペラの衣装へのこだわりは尋常ではありません。生地の質感や、刺繍など細部にまでこだわって作られています。また、歌手が演じることで衣装は生き生きとした動きを見せます。この衣装の素晴らしさは、写真や動画ではなかなか味わうことができません。衣装に注目して観劇するのもおすすめです。
音楽
オペラは巨大ですから、作曲家は数年がかりで取り組むこともめずらしくなく、まさに人生を掛けた作品です。作曲家がそれまでにつちかってきたあらゆる技術を駆使した渾身の作品となっています。舞台や歌に注目しがちですが、鳴っている音の隅々まで聞くと、作曲家の作り出した世界観に圧倒されることでしょう。とくに序曲といって、まだ幕が上がる前のオーケストラは、物語を暗示する作曲家の腕の見せどころとなっています。
物語
オペラは演劇や映画に比べると物語の進行速度は遅いですが、それだけ一つの出来事に対する感情描写が徹底的に行われます。有名な物語を扱う場合もあれば、あまり知られていない物語であることもありますが、その物語に感情を移入して観劇するのもおススメです。イタリア語やドイツ語での上演の場合は和訳が表示されることがほとんどですが、物語を追う自信の無い方は、あらかじめ物語の予習をしておくと良いでしょう。
オペラの伝統
最古のオペラとして今日でも上演されているものは、1607年に作曲されたモンテヴェルディの「オルフェオ」です。それから400年にわたって、進化と破壊を繰り返しながらオペラは発展してきました。
伝統的なスタイルのオペラは、物語の進行と、感情の表出を完全に切り分けています。
物語の進行を担うのは、「レチタティーヴォ(朗唱)」と呼ばれる部分で、旋律は控え目で、演劇的に話が進んでいきます。レチタティーヴォに挟まれるように「アリア」と呼ばれる部分があります。アリアは物語の進行が止まり、雄大なオーケストラ伴奏に乗せて登場人物一人の感情が歌われます。歌詞も詩的で何度も同じ単語を繰り返したり、強調したりします。歌手の見せどころのひとつでもあり、アリアが終わると演奏を一旦中断して長い拍手が起こることもあります。あまりにも素晴らしい演技のあとは、拍手が鳴りやまず、一旦幕を下ろしてしまうことさえあります。
近代のオペラはこのように物語が止まることを避け、アリアとレチタティーヴォの境目が曖昧になったような作品が多く出てきます。こちらはより物語に感情移入がしやすい一方で、古典的なオペラの華やかさは控え目になっています。この場合は、拍手は幕が降りて音楽が完全に止まってからになります。
オペラを断片的に楽しむ
オペラを全部通して見ると非常に長くなってしまって億劫・・・という場合は、オペラを断片的に楽しむことができます。
序曲
オペラの幕が上がるまでにオーケストラで序曲が演奏されるのが通例ですが、序曲はしばしば取り出されて演奏されます。作曲家が序曲だけで演奏できるように編曲することもあります。序曲は物語全体を7~8分のオーケストラ曲に凝縮したもので、物語を知っているとより楽しめるものになっています。
アリア
アリアは美しい旋律線だったり、超絶技巧を見せるようなものであったりと、個性豊かな曲として独立できるものとなっています。有名なアリアは歌手だけでなく、楽器奏者によって演奏されるようなこともあります。良く聞く旋律が実はオペラのアリアだった・・・ということも珍しくありません。もし楽器を練習している方はぜひオペラの旋律の演奏にチャレンジしてみても楽しいと思います。
いざオペラを観劇!服装や必要なものは?
オペラはなんとなく貴族文化の象徴・・・のように思って敷居が高く感じられることもあります。それはそれでオペラの一側面で、イタリアの伝統的なオペラハウスにはいまも貴族専用席があったりします。いわゆるボックス席は貴族席の名残ですね。
このような格調高い文化のために、それなりにフォーマルな恰好をして観劇する、というのはおススメの観劇方法です。非日常的な感覚を楽しむことができますし、格調高い世界に溶け込むというのも楽しいものですね。
一方で、オペラは一般大衆にも広く開かれていて、むしろオペラの成功・失敗を判断するのは立ち見席に詰めかける大衆たちであったと言われています。本来オペラには服装の規定はありません。ジーンズにTシャツといった格好で気軽に観劇に来る観客も多くいます。そんなふうにふとオペラに立ち寄ってみる、というのも楽しい体験ですね。
オペラの会場で必ず売られているのがオペラグラスですね。つまり双眼鏡です。オペラグラスがあると、お気に入りの歌手を大きく見ることができたり、衣装の細かいところまで確認したりすることができます。これはオペラ愛好家になって、どうしても細かいところまで見てみたい、という方にはおすすめですが、特に必要があるものでもありません。オペラは手ぶらでも十分に楽しむことができます。
オペレッタ・ミュージカルとの違い
オペラをより喜劇的にして軽いタッチにしたものがオペレッタです。オペレッタとして有名なのはオッフェンバックの『天国と地獄』ですね。ギリシア神話をパロディーにした、すこし道徳的に逸脱している笑える話となっています。独特のオペレッタ節のようなものがあり、人気の作品です。
ミュージカルは、ガーシュウィンのオペラ『ポーギーとベス』が始まりとされています。(『天国と地獄』とする説もあります)
ダンスや歌無しの演劇が入ることが特徴で、音楽もジャズあるいはポップスに近いものを使います。
オペラ・オペレッタ・ミュージカルを厳密に区別することは難しく、またナンセンスであるとも言えるかもしれません。ぜひ自分の好きな作品を見つけてみましょう。