クラシックギターと聞いてすぐに思い浮かぶ曲はありますか?
曲を挙げられた方は、結構少ないかもしれません。
ピアノやバイオリン等に比べると、もしかすると音量が小さくなんとなく地味な印象を受けるかもしれませんね。
ピアノにはショパンやラフマニノフ、バイオリンにはパガニーニやサラサーテ等、音楽の教科書に載っているような歴史上の作曲家が多くの曲を残しているのに対し、クラシックギターにおいては、そのような歴史的な世代の作曲家はほとんどいません(近現代以降では、少ないながら著名な作曲家がギターのための曲も残すようにもなりました)。
ただしそれは、クラシックギターに「出来ることが少ない」だとか、「魅力が無い」わけではありません。
むしろ、クラシックギターは持ち運びが可能でありながら、一人で伴奏とメロディを幅広く奏でることができるという素晴らしい特徴をもった楽器です。
この記事では、クラシックギターの可能性や魅力、そして古典〜ロマン派の時代にどう扱われていたかを聴いて感じることができる曲を、6曲選んでまいりました。
ぜひ実際に再生しながらお楽しみください。
魔笛の主題による変奏曲 F.ソル
F.ソル作曲の「魔笛の主題による変奏曲」は古典派ギターの代表的な作品です。
モーツァルトの有名なオペラ「魔笛」から、「これはなんと美しい響き」の主題が用いられています。
この「魔笛の主題による変奏曲」は、ギター曲全体の中でもとりわけ有名かと思います。
もしかしたらどこかで耳にしたことがあるかもしれません(エヴァンゲリオンの映画中にも挿入されています!)。
F.ソルはギター史においても重要な作曲家であり、多くのギター曲を残しています。
ギターの楽器としての可能性を模索し続け、F.ソルの別の代表作である「村人の幻想曲」では、当時ほとんど用いられなかったポジションのハーモニクスを使用し、鐘の音を再現しようと試みています。
ロッシニアーナ M.ジュリアーニ
M.ジュリアーニ作曲の「ロッシニアーナ」は、その名の通り、ロッシーニのオペラからアリア等を引用し作曲されました。
全部で6曲あり、多くのオペラから引用され、それらを上手く繋ぎ合わせられています。
この音楽形式は「ポプリ」と呼ばれるもので、現代で言うメドレーの様なものです。
ロッシーニが当時いかに流行していたかが見てとれます。
6曲いずれも華々しくヴィルトゥオーゾを強く印象づけます。
演奏者にとっては、ロッシーニ特有の規模の大きなクレッシェンドの再現に苦労させられる曲となっています。
序奏とカプリス G.レゴンディ
G.レゴンディ作曲の「序奏とカプリス」はロマン派初期の作品です。
クラシックギターにはロマン派の期間の作品がほとんど残っていません。
私の意見ですが、管弦楽が隆盛を極めたことにより、それに押される形で当時のギターへの注目度が下がっていたからではないかと考えています。
この曲は、ギターにとって貴重なロマン派の作品として多くのギタリスト達に愛奏されています。
演奏難度は高いですが、それに見合った華々しさと、ロマン派らしい豊かな和声感が特徴です。
3つのスペイン風小品 J.ロドリーゴ
「アランフェス協奏曲」で有名なJ.ロドリーゴ作曲の「3つのスペイン風小品」は「ファンダンゴ」「パッサカリア」「サパテアード」の3曲からなります。
1曲目と3曲目はスペイン舞踊のリズムが用いられ、スペインの情緒が香ってきます。
しかし、用いられている書法は新古典主義的であり、ただのフォルクローレなだけではない所が面白いところです。
ギターといえばスペインのイメージが湧くかと思いますが、この曲ではそのイメージ通り、フラメンコギターの奏法であるラスゲアード(掻き鳴らし奏法)が用いられています。
聴いていても演奏していても爽快な気分になれますね。
5つのバガテル W.ウォルトン
ギター版
オーケストラ版
W.ウォルトン作曲の「5つのバガテル」は近現代の音楽です。
この曲の面白い点は、後にウォルトン自身によってオーケストレーションされたという点です。
ギター曲が後にオーケストレーションされるのはとても珍しいことです。
ギター版、オーケストラ版どちらも甲乙付け難く、それぞれの良さがあります。
ギター版においては、ギターが持つ独特の楽器の"鳴り"が上手く作用し、この曲全体を支配しています。
一方オーケストラ版では、ギターとは比べ物にならないダイナミクスレンジにより、壮大でメリハリの効いたものになっています。
第3曲の「ハバナ風」は、どこか曇ったような天気を思わせる響きで曲が始まります。
そこから段々と雲が裂け、陽の光が漏れ出してくるように充実した響きへと変わっていくグラデーションが特に美しいです。
ぜひキューバ・リブレなんかのグラスを傾けながら、聴いてみて欲しい曲だと思います。
フォリオス 武満徹
日本を代表する作曲家である武満徹が最初に手掛けたギター曲であり、私の師である荘村清志氏に献呈されています。
フォリオとは二つ折りの紙という意味で、実際に見開き1ページに1曲の楽譜が収まります。
この曲は3つのフォリオから成り立っています。
全体を通して難解な印象を受けると同時に、どこか歌謡曲を思わせるような響きに親近感をおぼえます。
第3曲には、ほんの一瞬バッハの「マタイ受難曲」が顔を覗かせます。
武満徹はその後もギターの為の作品をいくつか残しており、最晩年には「森の中で」を完成させています。